シンガポール名物のチキンライス。どこに行ってもおいしいチキンライスを食べることができますが、実は発祥地といえる激戦区があるのをご存知ですか?思わず食べ比べしたくなるような、名店揃いのエリアに行ってみましょう。
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老舗「ラッフルズホテル」裏エリアはチキンライス激戦区
今や“チキンライス”というキーワードだけで、様々な人気店の情報が得られるシンガポール。その筆頭に挙げられるのが、チャイナタウンにある「天天海南鶏飯」でしょう。また、“チキンライス四天王”のひとつで、日本にも出店している「ウィナムキー」など、名を挙げ出したらキリがありません。
しかし、もっとシンガポールを奥深く知っていただくには、チキンライスの激戦区である「シャー・ストリート(Seah Street)」や「パービス・ストリート(Purvis Street)」にぜひ行ってみてください。そこは、若者の街ブギスから徒歩10分ほど。目の前には高級老舗ホテルのラッフルズホテルのすぐ裏という好立地エリアです。
1950年代前後の古きから、中国・海南島からの移民がこのシャー・ストリートやパービス・ストリート周辺に移り住み、コミュニティーが形成されました。なんといっても海南島はチキンライスの原点となる島。そんな海南島からの移民が、この地からチキンライスを広めていったという、功労者のエリアなのです。
チキンライス激戦区「シャー・ストリート」で食べ比べ
カンポンチキンが売りの「正瑞記(ジァン・スゥイ・キー)」
夕方になると、早くも「ビールで乾杯」の光景をよく目にする賑やかなお店です。チキンライスをはじめ、料理の種類も豊富なので、アルコールもすすむのでしょう。
同店のチキンライスの特徴は、通常の「チキンライス」と「カンポンチキン」の2種類があるということです。「カンポンチキン」というのは簡単にいうと、放し飼いされたニワトリを捌いたもの。ストレスフリーなので、肉質はしっかり、うま味が強く、市場では一般的な鶏肉よりも高く取引されています。
シンガポールは、隣国マレーシアからニワトリを輸入していて、その中でもカンポンチキンは人気が高く、あえてカンポンチキンと表記する店もあるほどです。もちろん、同店のカンポンチキンもメニューにしっかり反映されています。
茹でた丸鶏のスープで炊いたご飯と鶏肉は、別皿で提供されます。別々に食べるのも良いですが、ここは王道のOn The Riceにして、3種のソースをたっぷりかけていただきましょう。
チキンライスにかけるソースは、中国黒醤油のダークソイソース、唐辛子のチリソース、生姜のジンジャーソースが基本です。チリソースとジンジャーソースは、ほとんどの店が自家製なので、同じように見えても個性が出ています。同店のチリソースは、しっかりミキシングされていて辛味は控えめ。たっぷりかけていただきましょう。
因みに、飲み物は店内にあるカウンターでオーダーするのですが、委託された業者が入っています。食べ物とは別会計になるので注意してください。
- 正瑞記(ジャン・スゥイ・キー)
- シンガポール / アジア料理
- 住所:Zheng Swee Kee, 25 Seah Street, Singapore 188381, Singapore地図で見る
ファミリー層に人気の「新瑞記(シン・スゥイ・キー)」
先に紹介した「正瑞記」の並びにあって、こちらは小さなお子さん連れや学生たちの利用が目立ちます。開放的な広々とした店舗なので、観光客の人でも入りやすいかもしれません。
チキンライスを提供しているほとんどの店は、丸鶏をそのまま茹でてカットしているので、1羽分や半身分など人数によってオーダーしやすいのが特徴。丸鶏で茹でることで、余分な身の引き締まりがなく、ふんわり仕上がってうま味も逃がしません。もちろん、1人前でもそれは同じです。
先ほどの「正瑞記」との違いは、ジンジャーソース。生姜にネギを加えていることから、緑色のソースになっています。より香味野菜の風味が広がりますよ。このようなソースを提供しているレストランは他にもありますが、材料と手間がかかる分、生姜のみの店の方が多いです。
昔ながらの製法を守り続ける「逸群(イエット・コン)」
最後にご紹介するのは、初心者には少々入りにくいかもしれない、1940年に創業した老舗店「逸群」です。その佇まいからも重厚感を感じ、扉を開けるのに躊躇してしまうほどでしょう。こちらはシャー・ストリートの1本となりの「パービス・ストリート」にあります。
昨今のチキンライスは、丸鶏を茹でた後に冷水に浸す“広東式”の店が多いのですが、同店では、茹でた後は浸水させず、バットに直置きされています。丸鶏を吊り下げているオーソドックスなチキンライス屋さんの光景とも異なります。昔ながらの製法、伝統を忠実に守り続けている、貴重な店といえるでしょう。
客層は中国系の人ばかり。その昔は中国語しか通じないといわれていましたが、今では数名のスタッフさんが英語も話されます。メニューは少なく、チキンライスの他には、同店がオープンした当時からのメイン料理である「スチームボート」という鍋料理が人気です。
ちょっと雑な盛りつけですが味は絶品です。直置きしていることで、肉汁を逃すことなく保温性があって、よりふんわりと仕上がっています。ただし、広東式にあるようなプルンプルンな食感はありません。
ソースも個性的です。チリソースは、荒く刻んだ唐辛子によって辛さがより主張されています。かける量を調整しないと辛い物が苦手な人は危険かもしれません。ジンジャーソースも、おろし生姜というよりは荒く刻んでいるといった方がよいほどに食感がしっかりあります。同店はご飯もおいしいと評判なので、ソースだけでもご飯がすすみますよ。
古き良き佇まいと製法を貫く名店は、会計時にもその雰囲気を感じ取れます。先代から使われているそろばんをみると、まるでタイムスリップしたようにも感じられるものです。
チキンライスとともに、シンガポールの歴史も感じられる店です。
- 逸群(イエット・コン)
- シンガポール / アジア料理
- 住所:25 Purvis Street, Singapore地図で見る
シンガポールには、なぜ“瑞記”が多い?
先に紹介した2軒に共通しているのが、屋号に“瑞記”があることです。元々、このエリアには、チキンライスの知名度を上げた最大の功労店であった「瑞記」がありました。同店が1997年に閉店後、現在は親族によってマレーシアにて営業を続けていますが、シンガポールにはその味を継承する店がありません。
同じような店名をつけている店は、系列店やのれん分けした店というわけではないのですが、その店を崇拝していることから、自らの店に“瑞記”をつける店が多くなったのです。
そんな「瑞記」の逸話があるほどに、シンガポールでのチキンライスの存在は大きいといえます。なかなかガイドブックなどでは、このような情報を得ることはできませんが、シンガポールでチキンライスを食べる時には、屋号などにも気に留めてみてくださいね。