神奈川県にある箱根神社は、古くには山岳信仰における神仏習合の神が祀られ、源頼朝をはじめとする関東武士の崇敬を受けてきた歴史のある神社です。現代でも、勝負事や事業の成功、良縁や安産などに強力なご利益があるとされ、政財界から若い女性まで多くの人が参拝に訪れます。今回は、そんな箱根神社をめぐりながら、歴史的な由来や何気なく通り過ぎてしまいそうな見どころ、パワーがいただけるといわれるスポット、境内で味わえる美味しいものまで、箱根神社のおすすめをご紹介します。
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箱根神社の歴史
箱根神社は、奈良時代の757年、修験道に精通した僧侶の万巻(満願とも)によって建てられました。もともと箱根山では山岳信仰が盛んでしたが、この頃から修験道の霊場となったといわれています。
修験道は一般的に、神と仏が結びついた神仏習合の信仰です。箱根神社も、明治時代に神仏分離令が出されるまでは神道のみの神社ではありませんでした。僧侶の役職である「別当」が統括する「別当寺」あるいは「神宮寺」で、仏が神の姿になって救いに現れたという「権現」を祀っており、「箱根権現」と呼ばれていました。
歴史上の記録に箱根権現の名が頻繁に現れるようになるのは、源頼朝からです。平氏打倒のために挙兵した頼朝が石橋山の戦いで敗れたときには、箱根権現の別当に匿われました。
後に頼朝が鎌倉幕府の将軍となると、箱根権現・伊豆山権現(伊豆山神社)と、三島明神(三島大社)に、鎌倉将軍が参拝する「二所詣」が始まりました。どういうわけか、記録では3カ所訪ねても二所詣と記されているのですが、頼朝にとってこの3つが大切な場所だったことは間違いありません。
頼朝のように、箱根と他の2社を訪ねてみる旅もいいですね!
箱根神社までの道
箱根神社にはいくつかの無料駐車場があり、付近には有料駐車場も充実しているので、自家用車でも訪ねやすい神社です。バスや遊覧船が停まる元箱根港からも徒歩10分ほどになります。
元箱根から芦ノ湖沿いに徒歩で行くと、分かれ道になります。どちらからでも神社に行くことができますが、この記事では、写真の向かって右の道を行き、左の道から帰ってくるコースで歩いた順で、ご紹介していきます。
箱根神社の境内へ 参道を歩く
第三鳥居から境内に
しばらく行くと、箱根神社の看板と鳥居をくぐり、大きな木が並ぶ参道に入ります。元箱根港の近くから第一鳥居、第二鳥居が建っていて、ここは第三鳥居です。ちなみに、正月恒例の箱根駅伝のコース上にあり、走者がくぐっている鳥居は、第一鳥居になります。
日本古来のハート形「猪目(いのめ)」
拝殿へ入る前の手水舎、屋根を見ると、ハート形が!この形は「猪目(いのめ)」と呼ばれ、名前の通りイノシシの目の形がモチーフと言われています。魔除けの意味を持つということで、神社や刀の装飾などで使われている模様なのです。
坂上田村麻呂が矢を射立てた伝説「矢立の杉」
手水舎と参道を挟んで向かいには、樹齢1,200年といわれる御神木の「矢立の杉」があります。武士が神社などで戦勝祈願をするとき、杉などの木に矢を射立てる風習があり、その矢が立てられたとされる杉です。そのため、日本全国に「矢立の杉」があります。
箱根神社にあるこの矢立の杉の伝説はかなり古く、平安時代の801年に坂上田村麻呂が東北を平定に行く時に参詣し、矢を立てたといわれています。このときの東北平定は見事に成就したので、後の武士もこれにならい、戦勝祈願や所願成就のために箱根神社へ参詣するようになったそうです。
老杉が並び立つ正参道の石段
矢立の杉の向かい、手水舎の隣に、第四鳥居があります。ここから先は90段ほどの石段が続く参道です。登りは大変ですが、老杉の間を通る石段はひんやりとした神秘的な空気に包まれており、身も心も清められるような気持ちがする道です。途中には曽我兄弟を祀った曽我神社もあります。
いよいよ社殿 心をこめてお参りしましょう
参道の長い階段を抜けると「神門」
石段を登り第五鳥居をくぐると、朱色に彩られた社殿が現れます。ようやく本殿のあるエリアです。正面の神門の先に箱根神社の拝殿、右へ行くと九頭龍神社新宮や安産杉があります。
水を司る龍神に良縁を願おう「九頭龍神社新宮」
箱根神社の末社にあたる九頭龍神社の分霊が祀られています。九頭龍神社は、良縁成就にご利益があるとして、特に女性に人気のスポットですが、本宮への道は交通が不便で、体力や時間の余裕がないかたには参拝が難しい場所にあります。ですが、こちらでも、同じ九頭竜の神様にお参りできるのです。
入り口にある「龍神水」は、芦ノ湖を満たす箱根の湧き水で、飲むこともできます。授与所で持ち帰り用のペットボトルを購入できますよ。
本殿の前からも見えているヒメシャラの純林は、九頭龍神社新宮から奥の道を行くと近くに入れます。こちらは自生の林としては最北ということで、神奈川県の天然記念物となっている林です。同じ道から、箱根神社を建てた万巻上人の奥津城(おくつき=神道の墓)にも行くことができます。
源頼朝・政子も祈願した「安産杉」
源頼朝・政子が安産祈願をし、鎌倉三代将軍実朝を無事出産できたと伝わる安産杉です。神社へ伝わる話によれば、この木はもともと古代祭祀が行われていた時代に神籬(ひもろぎ)として崇められてきた木とのこと。
神籬とはなんでしょうか?常に神様がいる神社以外の場所で、神様が宿る依り代となる木のことです。例えば、下の写真のような神籬ならみたことがあるのではないでしょうか。
新しい建物が建てられるときによく行う地鎮祭の祭壇です。注連縄で区切られたエリアの中にこの祭壇が設置されますが、奥の榊の木にお供えをしていますね。つまり、ここではこの榊が「神籬」で、神様が宿っているのです。
箱根神社のこの安産杉は、このような神様が宿る木として、古代祭祀の時代から大切にされてきた木ということになります。そんな木でしたら、頼朝・政子夫妻が安産を祈願したという話も、うなずけますね。
箱根神社のご祭神に参拝「本殿」
さまざまなパワースポットのある箱根神社の中心、ご祭神のいる本殿です。箱根神社は歴史に名を残した武将達からも崇敬を受けてきたというだけあり、特に勝負運向上や事業の成功に強いご利益があると言われ、政財界からの参拝も多いとか。
ご祭神は、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)、木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)の3つの神様を総称した「箱根大神(はこねのおおかみ)」です。瓊瓊杵尊と木花咲耶姫命は夫婦で、彦火火出見尊はその間の子にあたり神話では「山幸彦(やまさちひこ)」として知られています。