近年、大地の芸術祭が開催され、多くの観光客が訪れるようになっている新潟県十日町市。ここに一軒の古民家カフェがあります。歴史を感じつつ洗練された雰囲気を感じさせる古民家カフェでやすらぎのひとときを過ごしてみませんか?
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カフェがある松代(まつだい)地区とは?
新潟県十日町市・津南町からなる、越後妻有(えちごつまり)地区で開催されている「大地の芸術祭」。松代地区は、「まつだい農舞台」を起点として近隣の野山をフィールドに、アートが比較的近距離で点在していることから、観光客が多く集まるスポットとなっています。
建築デザイナー カール・ベンクス氏
カール・ベンクス氏は、現在、新潟県十日町市の山間にひっそりと佇む竹所集落に暮らしています。1942年ドイツ ベルリン生まれで、青年期にベルリン、パリで建造物や家具の復元修復を学んでいました。1966年、空手を学ぶために日本大学に留学。以降、ヨーロッパや日本で建築デザイナーとして活動している方です。
カール氏が営む「古民家カフェ『澁い SHIBUI』」
十日町松代にある芸術祭の起点「まつだい農舞台」から歩いて10分、車なら約3分の場所にカール氏が手掛けた「古民家カフェ『澁い SHIBUI』」があります。かつてこの場所にあったのが、和風旅館です。明治38年創業の田村屋旅館が松栄館と名前を変え、2009年まで営業していました。
カール氏は、この旅館を買い取り再生、2階を自身が常駐する建築事務所、1階を古民家カフェとして生まれ変わらせたのです。歴史ある旅館を形作っていた貴重なケヤキ材などを守りつつ、ドイツ製のペアガラスや薪ストーブを取り入れ、重厚で落ち着いた雰囲気を醸しつつ、断熱も考えられた店内に仕上がっています。カール氏にとって、このカフェは、伝統的な暮らしの息吹を感じながらも、現代の暮らしを調和させるというカール・ベンクス独自のデザインスタイルを体験していただくための場所なのだそう。
古民家カフェで軽食ランチ
ドイツで建築デザインの仕事をしていた際に出版した日本建築本のタイトルが、『澁いDESIGN』でした。その名にちなんでカフェの名前にもなっています。「澁い」は、伝統建築の謙虚さ、静けさ、調和を理解するためにとても重要な言葉だとカール氏はとらえているようです。この言葉を念頭に、古民家カフェの居心地の良さを体感してみましょう。
ランチメニューは2種類で、キッシュかオープンサンド。ドリンクとデザート付きで2,200円です。ベーコンの塩味がきいたキッシュはコクがあって食べ応えがありましたし、塩味がちょうどよい生ハムとチーズの組み合わせは間違いのない美味しさでした。
バリスタが淹れる香り高いコーヒーと、デザート(この日はアップルパイ、チョコレートケーキ、コーヒーゼリーバニラアイス添え)の一つ一つがおいしくて、満足感が得られるランチタイムでした。店内は満席ですし、待っている方も多く、事務所見学の出入りも多いのですが、スタッフの方々の穏やかな接客は、大変居心地よく感じました。お酒がお好きな方むけには、ドイツの生ビールや国産ワインもあります。
建築事務所はモデルハウス
カール氏のデザインスタイルを体験したい方には、カフェで飲食する以外にも、より生活スタイルを想像できる空間があります。カフェの2階部分は建築事務所兼居間となっていて、キッチンやシャワールームなどがあり、その一部を公開しています。日本で言うモデルハウスですね。
旅館だったころは、釘を使わずに建てられていましたが、リフォーム時に現在の建築基準法に合わせて、ボルトや外壁からの筋交いで補強されています。漆喰にべんがら粉を混ぜた桃色の壁に、太くて存在感のある梁や大黒柱、40年以上前に骨董店で購入したという多門天像が置かれていたかと思うと、床にはイタリア製のタイルが敷かれていたり、ドイツ製の薪ストーブがどんと鎮座していたりするのです。様々な国の様々な資材や置物、設備が使われていながら、見事なまでに統一された、おしゃれな空間になっていることに感動してしまいます。