私たちは普段、色に囲まれて暮らしていて、さまざまな色彩イメージを持っていますね。それは国や地域によって違いがあるようですが、独自の文化を持ったモンゴルではどのように表されているのか、色にまつわるお話しをご紹介します。豆知識として知っておくと旅がより面白くなるかもしれません。
この記事の目次表示
汚れなき純粋な色「白」について
モンゴルでは、白はとても良い色として扱われています。純粋さを表すのはもちろんのこと、真実・創造・崇高といった神聖な意味も持ち合わせていて、寺院や民家などの祭壇にはお供物としてミルクが置かれてるのを目にします。これは「神や仏に清らかな白い飲み物を捧げる」という意味があり、お祝い事や祈りの儀式でもミルクは頻繁に使われています。
「白」に例えた言葉は数多くあり、旅行者が耳にすることがあるのは旧正月の「白い月(ツァガーンサル)」ではないでしょうか。これは「新しく清らかな季節の始まり」という意味が込められていて、一年で最も重要なイベントです。
また心のきれいな人のことを「白い心」、性格の明るい人のことを「白い人」、ボランティアのような良い行いのことは「白い事」というそうです。これらの言葉からも白は清らかさや純真さの象徴であり、ポジティヴな色であることがわかりますね。
ちょっと面白い例えでは、力仕事などツラい労働経験がない人の手を「白い手」といい、これは無知であることを表しています。それからモンゴルは未舗装のデコボコ道が多いですが、滑らかで走行しやすい道のことを「白い道」と呼んでいます。また良い行いをしたり人に認められることで、周囲から嫉妬や妬みをかってしまうことを「白い呪い」というそうです。
悪と強さの象徴「黒」について
「黒」は邪悪さを表す場合が多く、意地悪だったり人をだますような汚れた心ことを「黒い心」といいます。そして「黒い足跡」は常に悪い行いをしてきた人が残した道、つまり「悪の軌跡」という意味です。
ただ黒は必ずしもネガティヴな意味ばかりではなく、ときには「強さ」や「勇ましさ」など、頼り甲斐のある立派な男性を象徴することもあります。例えばよその家の亭主のことを「あなたの黒い人」といいますが、これは日本語でいうと「お宅のご主人」のような言い方であり、敬意のこもった呼び方になります。
ほかには「黒い教育の人」という言葉もあり、ビジネスセンスや人間関係のやり取りなど、学校教育では教わらない社会的スキルが、自然と身についている人のことをこういうそうです。
腐敗を表す色「緑」について
緑といえば日本では癒しやフレッシュさなど、心地のいいイメージを持つ場合が多いですが、モンゴルでは食べものが腐った色に例えられます。そのため頭が悪い人のことは「緑の頭」といい、脳みそが腐っているという意味で使われています。
それから、いつまでも寝つづけている様子のことを「緑になるまで寝る」といい、こちらもベッドと一体化しているダラけた様子を指しています。そして怠け者のことは「緑の奴」と呼ぶらしく、いずれも緑は腐敗したイメージで表されることが多いようです。
チベット仏教が表す色の意味
モンゴルはチベット仏教が信仰されている国であり、お寺や石碑を訪れると布が巻かれているのを目にします。これは「ハダグ」と呼ばれる聖なる布であり、チベット仏教のアイテムのひとつです。すべてのチベット仏教国で共通しているかはわかりませんが、モンゴルでハダグの色は以下のような意味で表されています。
- 青:青空
- 白:純粋
- 赤:火
- 緑:自然
- 黄:仏教
ハダグは正月や結婚式など正式な場に使われるほか、大切な物に巻く習慣もあります。例えば群れの中でとびきり強い馬や子をたくさん産んだヤギなどは、神のような特別な存在と認識されることがあり、その際には首や角にハダグが巻かれ大切に扱われます。若者が車を購入すると車内にハダグを飾ることもあり、いずれも「大切な物」という意味になります。
ちなみにハダグはギフトショップで売られているので、旅行の際には記念に購入してはいかがでしょうか。お守りとして大切な物に巻いたり、インテリアとして部屋に飾るとモンゴル気分が味わえるかもしれません。
おわりに
色彩が心身に直接的に働きかけることは一般的にも知られていますが、文化や歴史や宗教によって色が与えるイメージが異なるならば、色彩はひとつの理屈では言い切ることのできない、奥が深いものかもしれませんね。モンゴルでは色に例えた言葉が多く、それもまた興味深い部分でしょう。