世界の治安が悪い国ランキングなどを見ると、毎年必ず上位になってしまうホンジュラス。しかし、手つかずの美しい自然が多く、世界遺産に登録されたマヤ文明のコパン遺跡を有するなど、見どころは多い国です。今回は首都テグシガルパに絞り、治安的に厳しい街の背景と観光スポットをご紹介します。
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中米のホンジュラス
ホンジュラスは、中米の中央に位置し、東はカリブ海、南は太平洋に面する山の多い国です。ニカラグアに次いで中米諸国2番目に広い国土を有しています。
熱帯気候に属していますが、ホンジュラスの国土80%は山岳地帯のため、低地沿岸部以外は一年を通じて過ごしやすい気候です。
ホンジュラスと言えば、世界遺産に登録されているマヤ文明、コパン遺跡が有名です。グアテマラのティカル、ベリーズのカラコル、メキシコのパレンケ、カラクムルなどと同様にマヤ時代に大きく繁栄した王家を有す大都市でした。特にコパンは屈強なマヤ戦士が多く、文明末期は都市間との諍いが絶えなかったとか。
その当時の屈強なマヤ戦士も仰天の、現在のホンジュラスについてご紹介します。
ちょっぴり危険なホンジュラス
世界の危険な国ランキングで常に上位
殺人発生率の高さで、毎年世界のトップ争いに名を連ねるホンジュラスは、年間、日本の200倍の殺人が起きる治安の悪い国です。中米で有名なマラ・サルバトゥチャ13(以降、マラス)という若者を中心としたギャングは、ここホンジュラスでも幅を利かせており、政府も警察も手を焼いている状況です。
この組織は、メキシコ系ギャングに対抗するため、エルサルバドル内戦から逃れた元警察官や兵士らが集まり構成されました。その後、米国の移民排除の法律が成立し、強制送還されたホンジュラス帰国民が加わり、犯罪組織として成長してしまいました。
ホンジュラスは、目立った産業もなく社会的基盤が脆弱です。中米で最も貧しい国といわれており、失業者も多く、国民の半数以上が極貧生活を強いられています。貧困家庭は崩壊を招きやすく、子供たちは離婚した両親のどちらにも着けない状況となったり、両親や片親が殺害されたりなどで住む家を失い、路上生活を強いられます。
マラスは、これらの子供たちをギャングの構成員として雇い入れ、犯罪者として育て上げていくのです。親を失い、帰る家のなくなった子供たちにとっては、マラスこそが家族なのでしょう。
このように、国政の不安定さがギャングを増やし治安を悪化させ、さらなる貧困を招くという悪循環で、ホンジュラスにいるマラスの構成員は現在3万人以上まで膨れ上がっています。
彼らは、麻薬売買、誘拐、強盗、窃盗、恐喝、殺人、バスジャック、みかじめ料のゆすりなど、ありとあらゆる犯罪を行います。歯向かえばその場で殺され、警察に通報すれば家族ごと報復に遭うため、被害者は泣き寝入りするしかありません。殺人事件で逮捕されるマラスは後を絶たず、ホンジュラス国内の刑務所はどこもパンク状態なのだとか。
そんなパンパンな刑務所内でもマラスは活発で、度々殺人や不審火による火災が起きます。2019年の暮れにも36人が殺害される事件が起きたばかり。2012年に起きた火災では、357人の受刑者が亡くなっています。
マラスの特長
マラスは、全身にTATOOを施している人が多く、一目で分かります。顔面はおろか、スキンヘッドの頭部全体がTATOOに覆われている人もいます。
筆者はこれらの人を初めて見たとき、全身に般若心経を写した「耳なし芳一」を思い出しましたよ。芳一は耳にだけ般若心経を書くのを忘れられてしまいましたが、彼らの中には耳にまでTATOOを入れている人もいるので、芳一を超えてきています。
遠くにいても「何か違う」と分かりますので、もしその場の雰囲気(空気)に不穏なものを感じたら、できるだけ速やかにその場から立ち去った方が良いでしょう。近くにいても目を合わさない方が無難です。人間の習性なのか、自分の理解を超えたもの(顔面TATOOなど)に遭遇すると、「え?」と思わず凝視してしまいがちですが、そこは我慢。
マラスの出没地
また、家や公共施設の建物、看板などに「MS13」とスプレーなどで落書きのようなものが散見されますが、それらは「ここはマラスの縄張りです」という彼らの主張ですので、あまりその辺りでウロウロしない方が良さそうです。
ホンジュラスの銃所持事情
ホンジュラスは、一般市民の銃所持が合法です。拳銃は一人二丁まで、ライフルは各家庭に五丁までOKです。まるで家電品のようですね。それらは公共の場での携帯は認められていませんが、もはや「自分の身は自分で守ってね」という政府や警察の職務放棄としか思えません。
以前、エルサルバドルの記事でも書きましたが、これら国に絶望を感じ、住み慣れた我が家を捨てキャラバンに合流し、大勢でアメリカへ向かうホンジュラス国民の気持ちは痛いほど分かります。
一軒家の塀の高さ
筆者がこれまで多くの国へ行って学んだ教訓の中に「その国の治安は、一軒家の塀の高さで分かる」というものがあります。日本のように平和な国では、道路に面する一軒家の塀を特に高いと感じることはなく、どのような家屋が建ってるのかも見える家が多いと思います。家と家の間の壁も、どちらかというと境界線の意味が強く、隣人と会えば挨拶できるくらいの高さなのではないでしょうか。
しかし、治安の悪い国の塀の意味は違ってきます。家屋の高さより塀の方が高く、中がどうなっているのか全く伺い知ることはできません。若しくは、塀がなくても外窓は全て、頑丈な鉄柵で覆われています。
ホンジュラスは、一般家庭の一軒家の塀が、どこも頑丈なコンクリートで造られています。しかも、まるで刑務所の外壁のような高さで、その塀の上には鉄線がぐるぐると渦を巻いています。そして、玄関のドアは頑丈な鉄板でできており、いくつもの大きな鍵がつけられています。
一般家庭の壁がこんなにも高いのを、183ヵ国を旅した筆者も、ここに来るまで見たことがありませんでした。
それでは、これらの前提知識を頭に入れ、ホンジュラスの首都テグシガルパを安全に観光したいと思います。