旅先で寺院や教会を訪れる機会は多いと思いますが、異国の宗教観に触れることは、そこに住む人々がどんな思想のもとで、どんな世界を映し出しているのかを感じるきっかけになりますね。今回は日本から5時間半で行ける、モンゴルの宗教観についてまとめました。
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チベット仏教とシャーマニズムが共存するモンゴル
モンゴルはチベット仏教とシャーマニズムがミックスされた、独自の宗教観を持つ国です。一部のエリアではイスラム教が信仰されていますが、大半を占めるのはチベット仏教であり、そこにちょっと不思議なシャーマンの文化も加わっています。
民家の塀や家具などによく描かれているのは、「ウルジーヘー」と呼ばれる無限を表すシンボルです。これはチベット仏教地域で用いられ、永遠に続く愛と調和を意味しています。
モンゴルのチベット仏教寺院
マニ車とハタクが特徴
モンゴルの寺院には「マニ車」が並び、青や白の布が巻かれているのを見かけます。マニ車はチベット仏教の仏具であり、時計回りに回すとお経を唱えたと同じだけの徳が得られ、反対に回せばカルマが解消されるといわれています。
布は「ハタク」と呼ばれる聖なる布で、正月や結婚式などお祝いの場にも使われます。そのほか大切なものに巻く習慣があり、家畜の角に巻いてある場合は、群れの中でひと際強く神として扱われる特別な存在ということです。
- 青=大空
- 白=純粋
- 赤=火
- 緑=自然
- 黄=仏教
ハタクの色は以上のような意味を持っていて、よく見かけるのは「大空」を表す青色です。ハタクはギフトショップなどで購入できるので、お守りや記念に持ち帰ってみてはいかがでしょうか。
宗教弾圧により破壊された寺院
モンゴルは1990年以降に民主化されるまで、社会主義国として成り立ってきました。ですが「宗教は社会主義の敵」とみなされ、ロシア軍によって多くの寺院が破壊されていった時代がありました。その後修復されたものもありますが、崩れたまま残されているものも多くあり、そのひとつがウランバートル郊外にあるマンズシル寺院です。
マンズシルは「知恵の神」という意味を持っていて、1733〜1747年に建設されました。繁栄期には20件の寺院で300人のお坊さんが活躍し、学問の中心地として栄えたほか、僧侶らに階級を与える行政的な業務もこなしていたそうです。現在は崩れた建物が遺跡となって残っています。
モンゴル最大の仏教寺院「ガンダン寺」
モンゴル最大の寺院でありウランバートルの名所でもある「ガンダン寺」では、目を見開いた観音菩薩像が有名です。この観音像は第8代皇帝のジェプツンダンバ・ボグドゲゲン・ハーンが盲目となり、治癒を祈って建てられましたが、こちらもロシア軍により持ち去られてしまい、50年近くも空の状態が続きました。現在の観音様は1996年に再建された2代目です。
屋外には一本の柱が立っていますが、こちらはロシア軍がガンダン寺の破壊を試みたとき、何をしても倒れることがなかった命の柱です。さらに切り落とそうとすると木から血が流れたと伝えられていて、現在では魂の宿る柱として大切に扱われています。
モンゴルではこのように、宗教の自由を奪われた激動の時代がありましたが、人々の心からチベット仏教を信仰する気持ちが消え去ることはなかったようです。
- ガンダン・テクチェンリン寺
- モンゴル / 寺
- 住所:Gandantegchenling Monastery, Ulaanbaatar, Mongolia地図で見る
もうひとつの祈りの場「オボー」
モンゴルでは、丘の上や峠に石が積み上げられているのを見かけることがありますが、これは「オボー」と呼ばれる祈りの場です。祈り方はオボーに石を置きながら、周囲を時計回りに3回まわります。元々は旅の安全を祈るために作られたそうですが、春を迎える旧正月には元旦の朝早くに男達が集まり、近所のオボーに参拝に出かけるなど、家族の健康や繁栄を願う参拝の場所にもなっています。
精霊と交信するシャーマンについて
モンゴルにはチベット仏教のほかにシャーマニズムが根付いていて、宗教観を語る上で無視できない存在です。シャーマンは神や霊界といった、目に見えない世界とこの世をむすぶ不思議な役割を果たします。太鼓を叩いてトランス状態に入ると、精霊をカラダにおろしてメッセージを伝えたり、エネルギーを吹き込むなどの特殊能力を発揮します。
現代では占い師のように捉える人も多いですが、シャーマニズムは古くから伝わる宗教文化のひとつであり、モンゴル帝国の初代皇帝チンギスハーンも、シャーマニズムを信仰していたことで知られています。
シャーマンには白と黒のふた通りのタイプがあり、白は癒しや勇気を与えるなどポジティブなエネルギーをあやつりますが、黒は呪術など負のエネルギーをあやつります。人々が何かに迷ったり新しいことを始めるときは、シャーマンを頼って望む方向に導いてもらいます。
ウランバートルの外れには、シャーマン達が集まり儀式を行う場所があります。ガイドブックには載っておらず、何もない丘のふもとにハタクを巻いた木が建てられているだけですが、シャーマニズムを知った上で訪れると面白いかもしれません。位置はウランバートル中心部から南側。戦勝記念碑のあるザイサンの丘から2.5kmほど東になります。
- シャーマンの祈りの場所
- モンゴル / その他スポット
- 住所:Unnamed Road, Ulaanbaatar, モンゴル地図で見る