静岡県伊豆の国市にある韮山反射炉は、平成27年(2015年)に登録された世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産です。幕末に日本で作られた反射炉で現存するのはただ2つ、そのうち稼働した反射炉は韮山が唯一となっています。この記事では、韮山反射炉を見るときに知っておくともっと充実した見学ができるポイントや、見どころをご紹介します。
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世界文化遺産・韮山反射炉ってどんなところ?
韮山反射炉は、幕末(江戸時代末期)に、大砲を作るために江戸幕府によって建てられた施設です。世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として登録された23の構成資産の1つに含まれ、韮山反射炉はこのうち「製鉄・製鋼」の資産となっています。
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韮山反射炉が作られた理由
日本が外国に対抗するための軍事力強化が大きな課題となっていた幕末。韮山の地で幕府の領地を治める代官だった江川英龍(えがわ ひでたつ)は、管轄する地域が伊豆・駿河・相模・武蔵(現在の静岡県・神奈川県・東京都)という太平洋から江戸の海への入り口となる範囲にあり、海防に強い関心を持ちました。
さまざまな知識人と交流し学んだ英龍の知識と才覚は江戸幕府からも評価され、重要な役職につき、銃砲制作などを進めるようになります。品川台場(現在の東京・お台場)の築造も英龍によるものです。このような流れで、英龍の指揮により、幕府の大砲鋳造所として韮山反射炉が建設されました。
現存する幕末の反射炉は2ヶ所、稼働したのは韮山のみ
- 出典:commons.wikimedia.org現存する反射炉のもう1つ「萩反射炉」(By TT mk2 (Own work) [CC BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons)
当時は、他の地域でも各藩で作られた反射炉がいくつもありましたが、現存しているのは韮山と萩(山口県)の2ヶ所のみ。さらに、萩反射炉は試験用の雛形であるという説が有力なので、実際に稼働した反射炉は韮山のただ1つということになります。
最近では、テレビ番組『鉄腕DASH』でも、島で製鉄を行う方法を学ぶために韮山反射炉を見学する様子が放映されました。番組で無人島での製鉄の参考にされたように、日本が自力で鉄から大砲を作ろうと試行錯誤し、成し遂げた遺産として、貴重なものなのです。
次からは、実際に反射炉の見どころをご紹介します。
まずはガイダンスセンターへ
このガイダンスセンターでは、先に記したような歴史や、次から紹介する反射炉そのもののしくみが、映像や資料で詳しく解説されます。反射炉に関わる幕末の歴史や反射炉のしくみは少し難しいこともあるので、予習していったほうが、より充実した見学になりますよ。
入場券は江川邸との共通券がお得
韮山反射炉の入場券はガイダンスセンターで購入します。江川邸(江川家住宅)も見る方は、共通券の方がお得です。
小中学生:2館共通券250円(通常料金:反射炉50円・江川邸300円)
江川邸は、反射炉を作った韮山代官江川氏の住宅で、韮山代官の役所跡でもあります。お時間があれば、ぜひ一緒にご覧ください。
- 韮山反射炉ガイダンスセンター
- 三島・沼津・伊豆長岡 / 観光案内所・ビジターセンター
- 住所:静岡県伊豆の国市中260−1地図で見る
- Web:http://www.city.izunokuni.shizuoka.jp/bunka_bunkaz...
- 江川邸
- 三島・沼津・伊豆長岡 / 建造物 / 歴史的建造物
- 住所:静岡県伊豆の国市韮山韮山1番地地図で見る
- 電話:055-940-2200
- Web:http://www.egawatei.com/
反射炉で当時の大砲製造システムを見る
韮山反射炉で現存しているのは反射炉のみですが、かつては周囲に小屋もあり、大砲製造工場となっていました。世界遺産としての範囲は、反射炉本体だけでなく周囲の建物跡地も含みます。
反射炉は、炉体部の中で鉄を溶かし、鋳台に設置した大砲の型へ鉄を流し込み、大砲を鋳造していた場所です。内部は見学できませんが、耐火レンガでつくられたドームになっており、この壁に熱を反射させることで高温を作り出し、鉄を溶かします。
- 原料の銑鉄を入れる「鋳口(いぐち)」と、高温にするための燃料を入れる「焚口(たきぐち)」
- 鉄が流れ出てくる「出湯口(しゅっとうこう)」。左の砂利が敷かれている鋳台に設置された大砲の型へ鉄が注がれます。
それぞれの場所には、詳しい説明パネルが置かれています。この炉体部の石は伊豆でとれた石から作られているそうです。
韮山反射炉を写した写真などで目立つ白い塔のようなものは、煙突です。現在はレンガがむき出しになっていますが、当初は漆喰が塗られていました。鉄骨は、昭和32年(1957)に補強のために設置された物です。
反射炉の横にある河川も世界遺産の資産範囲です。稼働していた当時はこの川に水車があり、その動力を使って鋳造した大砲を回転させ、中をくりぬく作業をしていました。
展望台もぜひ見たい
反射炉から川を越えると物産館やレストランなどがあり、さらにその右手の、茶畑が広がる小高い丘を登ると、展望台があります。お時間があれば、こちらもぜひのぼってみましょう。
晴れた日には反射炉付近の韮山を一望でき、富士山を見ることもできます。写真を撮った日は、ちょうど富士山に雲がかかってしまっていますが、左下の写真のように見えるはずです。
- 反射炉 富士山 展望所
- 三島・沼津・伊豆長岡 / 展望・景観 / 富士山ビュースポット / 展望台
- 住所:静岡県伊豆の国市中272地図で見る
一度は買ってみたい「パン祖のパン」
物産館では、地ビールやいちごなど、たくさんの名産品が販売されています。中でも、一度は実際に食べてみてほしいのが「パン祖のパン」。反射炉をつくった江川英龍は日本で初めてパンを製造した人ともいわれており、その当時のパンを再現したというパンです。1個130円で、5個入り600円も販売されています。
とはいえ、このパンは軍の保存食として作られたというだけあり、とても堅く、味も現在の一般的なパンとはかなり異なります。袋にも「当時は湯茶などに浸して食したそうです」とあるように、食べる時は、コーヒーやスープなどに浸して柔らかくして食べましょう。
- 反射炉物産館 たんなん
- 三島・沼津・伊豆長岡 / おみやげ屋
- 住所:静岡県伊豆の国市中272−1地図で見る
- Web:http://www.kuraya-narusawa.co.jp/
幕末日本人の知恵と努力が作り上げた「韮山反射炉」
韮山反射炉は、稼働が終わった後の150年以上も地域で大切に保存され、現在まで残りました。科学も情報も発達していなかった時代の日本で、苦心して作り上げ動かしていた貴重な資産です。ぜひご覧になってください。
- 韮山反射炉
- 三島・沼津・伊豆長岡 / 遺跡・史跡 / 桜の名所 / 世界遺産 / 観光名所
- 住所:静岡県伊豆の国市 中字鳴滝入268地図で見る
- 電話:055-949-3450
- Web:http://izunotabi.com/見る・遊ぶ/史跡/韮山反射炉/