スコットランドといえば、エディンバラ・グラスゴー・ネス湖のような首都部と古城や神秘的な自然のイメージが強いですが、その中でも16~17世紀の村がそのまま保存された場所があります。産業の衰退でゴーストタウンならぬゴースト村と化したこの地は、18世紀のスコットランドを舞台にしたタイムトラベルロマンスで大人気のドラマ『ハイランダー』の撮影地の一つでもあります。今回はまるで時が止まったおとぎの国のような可愛い元港の村「クーロス(Culross)」をご紹介したいと思います。
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旧世紀の遺産「クーロス」の歴史 発展と衰退 そして再生へ
一時期は栄えたクーロスが何故ゴーストビレッジとなったのか
クーロスはフォース湾(Firth of Forth)の港町として栄えた海外との貿易権を持つ自治都市(Royal burgh)で、元々6世紀に聖サーフによって設立された教区であったと考えられています。テイ湾とフォース湾の間にあるファイフ(Fife)という区画に位置しています。
16~17世紀にかけては炭鉱業の中心であり、世界初となる海底に及ぶ掘削拡大に成功しました。
クーロスとその周辺地域ではオランダ製の赤い瓦が多く使われていますが、これは船の底荷として積まれてきたもので、当時製塩による製品の輸出も盛んであったことを物語っています。また、オーブンの直火で焼く時に使われる平らな鉄のプレート「ガードル」を作っていたことでも有名です。
しかし時代が移り変わると共に、港の役割は18世紀初頭にかけて減少していきました。
炭鉱はアッパーハーストというスコットランド中部の炭層を発電所に供給していましたが、石炭としては低品質で他の用途には適しておらず、17世紀初頭の英国の驚異の一つとまで言われた炭鉱は暴風雨によって破壊されてしまいます。
18世紀には発明家である第9代ダンドナルド伯爵アーチボルド・コクランによってコールタールを抽出する特許技術が開発され、ビクトリア朝時代にはゴーストタウンならぬ「ゴースト村」と化してしまいました。
19世紀後半には港が埋められ、海岸線沿いに敷かれた鉄道線で海へのアクセスも経たれてしまったのです。
過去の遺物は現代への遺産
しかしながら、村は手つかずのまま放置されたが故に、現代にその姿を伝えることとなりました。
クーロスは昔ながらの独特な建造物が残っていることで20世紀になって改めて注目され、1930年代スコットランドのナショナルトラストはクーロス御殿(当時クーロスで成功した豪商の邸宅)の購入を皮切りに、状態の悪くなっていた村の保存に乗り出しました。
外側の港も近年地元の人々によって修復されました。スコットランド・ナショナルトラストは村の景観を再現する目的で周辺住民にも援助をし、現在のように街並みは復元されつつあります。2006年度の調べによると村の人口は395人と言われています。
スコットランド伝承にも登場するクーロスとフォース湾
クーロスは、スコットランド伝承にあるキリスト教の聖女テネウの伝説に出てきます。
結婚前に望まぬ形で妊娠したテネウは、そのことに激怒した父王に死を命じられ崖から落とされました。しかし無傷で助かった彼女は漂っていた無人ボートに乗ります。
ボートはフォース湾を渡って彼女をクーロスへと導きました。そこで聖サーフによって救われ、無事ケンティガーンを出産しました。ケンティガーンは後にグラスゴー守護聖人である聖ムンゴとして知られることとなるのです。
クーロスの特徴の一つとしてあげられるのは、村に面している美しい河口湾。クーロスへ流れるフォース川を含めたいくつかの川の水が海水と混じり合うフォース湾は、有名な英国バンドのジェネシスが『Firth of Forth』という曲を出したことでもその名が知られています。
スコットランド東岸にあるフォース湾は、多くの町がその海岸線に沿って続いており、たくさんの工業地帯があります。
クーロスが位置するフォース湾奥のキンカーディン橋とフォース橋の区間は、工業開発や発電所の石炭火災などの影響を受けて半分ほどが失われました。現在は毎年野鳥の群れが飛来する自然保護区域となっています。
歴史的背景が詰まったクーロスの見どころ
イングランドでいうコッツウォルズにも匹敵する、スコットランド史の現存資料ともいえるクーロス。ドラマ『ハイランダー』の撮影も行われたことで、国内外の旅行者を問わずの人気沸騰中のスポットとなっています。
現在はビジターセンターとなっているクーロス・タウン・ハウス(昔は裁判所・刑務所として使われた内部はその名残が見られます)と、広場を中心とした美しい街並みや周辺環境からして見どころが満載ですが、その中でも特に観光スポットして注目されている場所をいくつかご紹介します。
地元きっての豪商の邸宅「クーロス御殿」(Culross Palace)
広場の奥に位置しクーロス・パレスと呼ばれる辛子色の館は、16~17世紀にかけて炭鉱業を発展させた技術者で商人の「ジョージ・ブルース卿」が自宅として建設したものです。彼は石炭採掘技術の革新者であり、新しい排水技術を使ってアッパーハーストを掘り出す海底掘削技術を導入しました。
炭鉱はイングランド王ジェームス一世の訪問を含め、多くの人々の関心を集めました。見たことのない海底トンネルの構造に、招待されたジェームス一世はブルース卿が自分の命を狙ってそこに案内したのではないかと疑ったほどだったと言われています。
それ程までの成功を収めた彼の御殿は、海外との貿易が盛んだった当時の状況を物語るように、オランダ製の瓦や硝子を始め北欧産の木材などがふんだんに使用されています。外壁は再塗装されており、当時の華やかな辛子色が再現されています。
屋敷内は修復されつつあり、木製のパネルに彩色された絵や模様が鮮やかに部屋を彩っています。当時の家具や服も展示されていて、豪商一家の豪華な生活を垣間見ることができます。(2015年時点)
裏庭には当時栽培されていた野菜・果物・ハーブ・樹木などが広がっていて、訪れる人々の心を和ませてくれます。(*屋敷内は撮影禁止)
- クーロス・パレス
- イギリス / 建造物
- 住所:Culross Palace, Culross, Dunfermline KY12 8JH地図で見る
- 電話:01383 880359
- Web:https://www.nts.org.uk/visit/places/culross