イラク

【イラク】イスラム教シーア発祥地クーファの美しいモスク三選

取材・写真・文:

東京在住
訪問エリア:186ヶ国

2023年11月17日更新

171view

お気に入り

写真:toshel

イラクの首都バグダッドから車で南へ二時間。イスラム教シーアの拠点となり、歴史の証人ともなったクーファの美しいモスクを歴史とともにご紹介します。

この記事の目次表示

神学と学問の都市クーファ

クーファはバクダードの南方に位置する都市です。正統カリフ時代の第4代カリフ「アリー」が首都を置き、イスラム教アリー・シーアの拠点でもあります。また、イスラーム法学の研究の中心地のひとつであり、クルアーン(コーラン)解釈学の始まりの場所でもあります。アラビア文字の書体であるクーフィー体の名前はクーファに由来し、アラブの男性が頭に巻く「クーフィーヤ」もクーファが語源とされるなど、アラブの歴史に深く関わる重要な街です。

イスラム教シーアの起点となったクーファの歴史

現在に至るイスラム教の宗派「シーア」は、ここクーファが始まりです。街のご紹介をする前にその歴史を紐解きたいと思います。

初代イマーム・アリーの拠点クーファ

偉大なるイスラム教預言者ムハンマドを父方の従兄弟にもち、ムハンマドの娘ファーティマの夫でもあるアリーは、ムハンマドがイスラム教の布教を開始したとき、最初に入信したひとりとして早くからムハンマドの後継者と目されていました。

  • 写真:toshel

アリーの暗殺

第四代カリフとなったアリーは、首都を現サウジアラビアのメッカからここクーファへ遷都します。しかし661年、アリーはクーファの大モスクで祈祷中、毒を塗った刃で襲われ2日後に息を引き取ります。正統カリフ時代のカリフ4人のうち3人は暗殺されています。

◆正統カリフ時代

  • 第一代カリフ:アブー・バクル(632年 - 634年)
  • 第二代カリフ:ウマル(634年 - 644年)暗殺
  • 第三代カリフ:ウスマーン(644年 - 656年)暗殺
  • 第四代カリフ:アリー(656年 - 661年)暗殺

ウマイヤ朝の開朝

ウマイヤ家出身の第三代正統カリフのウスマーンが暗殺された際、彼を輩出したウマイヤ家はこれをアリーの一派による仕業と糾弾していました。アリーが暗殺されたのち、ウマイヤ家のムアーウィヤは正式なカリフを自称し、イスラーム世界の統治者となります。また、カリフの地位を自己の「家系による世襲」と宣言しウマイヤ朝を開きます。

アリーの支持者による反発とシーアの形成

ウマイヤ家の世襲に反発したアリーの支持者は、それを認めず「預言者ムハンマドの娘婿であるアリーと、ムハンマドの血を引くアリーの子ハサンとフサイン、およびその子孫のみが指導者たりうる」と主張。彼らを無謬のイマーム(指導者)と仰ぎます。のちにアリーの支持派は「シーア」となり、ウマイヤ朝の権威を認めた多数派は、後世「スンニ」と呼ばれるようになります。

アリー・シーアの十二イマーム

アリーを初代イマームとしたシーアの人々は、アリーの長男ハサンを第二代イマーム、弟のフサインを第三代イマームとし、彼らを無謬のイマーム(指導者)と信仰します。しかし、680年にイラクのカルバラーでウマイヤ軍に襲撃され悲惨な最期を遂げます。

詳しい記事はここ

◆十二イマーム派

  • 第一代イマーム:アリー
  • 第二代イマーム:ハサン
  • 第三代イマーム:フサイン
  • 第四代イマーム:アリー・ザイヌルアービディーン
  • 第五代イマーム:ムハンマド・バーキル
  • 第六代イマーム:ジャアファル・サーディク
  • 第七代イマーム:ムーサー・カーズィム
  • 第八代イマーム:アリー・リダー
  • 第九代イマーム:ムハンマド・タキー
  • 第十代イマーム:アリー・ハーディ
  • 第十一代イマーム:ハサン・アスカリ
  • 第十二代イマーム:ムハンマド・ムンタザル - 隠れイマーム

その後はフサインの系統が代々イマームの地位を継承しますが、すべてのイマームは暗殺されます。874年に第十一代イマームが亡くなると第十二代となるべき「ムハンマド=ムンタザル」は姿を消してしまいます。アリー・シーア信者は第十二代イマームは迫害を避けて「お隠れ(ガイバ)」になった」「その後も人知れず生き続け、世の終わりに先立って救世主として再臨する」と信じるようになりました。

テロ組織の温床とされたクーファ

クーファは先述の通りアリー信奉者の多い街です。サウジのメッカから、わざわざ首都を遷すほどアリーにとって重要な街でしたが、これに伴いしばしば反乱・反政府の温床ともなりました。近年のイラク戦争では、テロ組織の温床とされ、侵攻した米軍と激しい戦闘が発生し多くのイラク人が亡くなりました。遡って、中世にはアッバース革命の中心地となり首都に返り咲くなど、政治の中心となる重要な街だったのです。

クーファの美しいモスク

それでは、これよりクーファの美しいモスクをご紹介します。

大モスク(Masjid al-Muazzam)

クーファにある大モスクは、現存する世界で最も古いモスクの一つです。モスクと呼ばれる寺院が建設されたのはここが世界初ともいわれています。ここは西暦638年から建設が始まり、何度も大幅な再建と修復が行われてきました。アリーは661年にこのモスクで暗殺されており、当初はこのモスクに埋葬されていました。749年、ウマイヤを倒しアッバース朝の初代カリフが正式に宣言されたのはこの大モスクでした。

  • 写真:toshel

ここは入り口です。警備をしている警察にカメラとパスポートを預け、女性はチャドルを借りて二度のチェックポイント(持ち物、ボディチェック)を通ります。

  • 写真:toshel

広大な敷地にいくつかのモスク、寺院が点在します。イスラムの伝統では、ここはノアの住居であり、彼が方舟を造った場所ともされています。

  • 写真:toshel

また、このモスクで一回お祈りを行うことは、他の場所で1,000回の祈りを行うことと同等で、メッカ巡礼と同等であるとシーアは述べています。

  • 写真:toshel

一番手前にある寺院の入口は、趣向凝らした豪華なものです。カルバラーのアッバス廟に負けずとも劣らない美しさです。

  • 写真:toshel

天井の装飾も美しいです。何世紀にもわたって歴史的・宗教的に重要なモスクの一つです。

  • 写真:toshel
グランド・モスク
イラク / 観光名所 / モスク
住所:クーファ地図で見る

グレート・モスク(Al-Sahla Great Mosque)

美しい建築様式が特徴的なこちらのモスクは、アリーとイマーム・ザマンの住処であったとされるモスクです。

  • 写真:toshel

このモスクは、十二代目の隠れイマームであるムハンマドが再出現後に住むとされている重要なモスクです。

  • 写真:toshel

こちらのモスクは天井ドームの装飾に個性が光ります。

  • 写真:toshel

広い礼拝室の天井は、大きいドームの周りを小さな複数のドームが囲むなど、これまた珍しい(虫っぽい?笑)素敵なデザインです。

  • 写真:toshel

筆者は世界中のモスクを探訪してきましたが、ここまでにない珍しい色使いとデザインです。

  • 写真:toshel
グレート・モスク
イラク / 観光名所 / モスク
住所:クーファ  Al-Sahla Great Mosque地図で見る

サーサ・ビン・ソハン・モスク(Saasa bin Sohan Mosque)

クーファには大小様々なモスクが点在します。上述の二大モスクを筆頭に、小さなモスクも建築美の光るものが多く、モスク巡りの楽しい街です。こちらは、アリーの教友でありシーアに尊敬されるサーサ・ビン・ソハンのモスクです。

  • 写真:toshel

ムアウィヤ1世によって現在のバーレーンに追放され、666年(西暦44年)に亡くなっています。ドームやミナレットの細部にわたり緻密な装飾の凝らされた美しいモスクです。

  • 写真:toshel
サーサ・ビン・ソハン・モスク
イラク / 観光名所 / モスク
住所:サーサ・ビン・ソハン・モスク クーファ地図で見る

クーファはアリー・シーアの拠点だけあり、このほかにも美しいモスクの多い街です。ぜひ、ご自分の足で新たな美しいモスクを探訪されてみてはいかがでしょうか。

クーファへの行き方

首都バグダッドから行く場合、ここで書いたように、アラウィ・サウス・ガレッジから向かいます。乗車時間は一時間前後です。

クーファ
イラク / 町・ストリート
住所:KUFA地図で見る

イラクの旅行予約はこちら


イラクのパッケージツアー(新幹線・飛行機付宿泊プラン)を探す

イラクのホテルを探す

イラクの航空券を探す

イラクのWi-Fiレンタルを探す

この記事で紹介されたスポットの地図

関連するキーワード

※記事内容については、ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。

あなたにオススメの記事

同じテーマの記事


【イラク】首都バグダッドの見どころ15選

イラクの首都バグダッドは、中世アッバース朝時代そのままの街をはじめ、宮殿、遺跡、モスクが至るところに遺っています。今回は、バグダッド市内中心部の歴史ある見どころ...


【イラク】ついに解禁!アライバルビザ取得方法

2021年3月、イラクの扉がついに開きました。日本を含む36カ国は到着ビザ(ビザ・オン・アライバル)で入国可能です。早速「文明のゆりかご」といわれるメソポタミア...

【イラク】イスラム教イマーム・アリーの霊廟あるシーア最大聖地ナジャフ

イラクの大都市ナジャフは、イラクにおけるシーア政治権力の中心地であり最も神聖な都市、精神的な首都の一つです。イスラム教の父ムハンマドの義理の息子であり娘婿でもあ...

【イラク】ここが幻のバビロン(世界遺産)

バビロンは、世界最古の文明発祥地メソポタミアにおいてバビロニア帝国の首都になった古代都市です。今回は、時代を隔てて長期にわたりこの地域を支配したバビロンの遺跡を...

【イラク・クルディスタン】悠久の時を刻む文明発祥地の都市散策

ティグリス川、ユーフラテス川が南北に流れる国イラクは、メソポタミア文明発祥の地です。この辺りは、紀元前8000年には集落が出現した世界最古の都市ともいわれ、北部...

この記事を書いたトラベルライター

地球旅~現在186ヵ国~
行ったことのない国を中心にひとり旅しています。他国の歴史、文化、宗教、遺跡、そしてそこに住む人々の考え方に興味があります。

車の運転が好きなので、海外ではドライブ旅を楽しんでます。普段は会社員です。

【ホンジュラス】世界屈指の犯罪都市テグシガルパ

世界の治安が悪い国ランキングなどを見ると、毎年必ず上位になってしまうホンジュラス。しかし、手つかずの美しい自然が多く、世界遺産に登録されたマヤ文明のコパン遺跡を...


【レバノン】ベイルート・ビブロス・バールベックの見どころ

遠い昔、世界の中心が地中海にあった時代、レバノンは東西貿易の交差点となる重要な位置にあり、繁栄の極みにありました。古くから数多くの王様や将軍が、この土地を挙って...


カリブの島はどこがいい?陽気レゲエでちょっぴり危険な「バルバドス」どこまでも静かな「アンティグア」

カリブ海には、大小様々な島がおよそ700あります。そのほとんどは欧米各国の領土で、独立国はわずか13カ国のみ。今回は、その中より対極にある2つの小さな島国をご紹...

【サウジアラビア】ついに観光ビザ解禁!閉ざされていた王国の珍しい文化と各都市の見どころ

観光での入国が困難だったサウジアラビアが、2019年9月27日に突然、ツーリストビザの発給開始を発表しました。今回は、サウジアラビアに古くからある慣習と文化、そ...

【ベネズエラ】世界の危険都市上位?首都カラカス

世界屈指の産油国にしてハイパーインフレーションに陥った南米の国ベネズエラ。かつて、スペイン植民地から独立へと導いた英雄「シモン・ボリバル」の生まれ育った街でもあ...

トラベルライターインタビュー Vol.3 Emmyさん

【トラベルライターインタビューVol.3】一人旅を応援する記事を多数執筆!Emmyさんならではの人気記事執筆のコツやその原動力に迫ります