日本有数の観光地である鎌倉。「鎌倉」でイメージするのは、神社仏閣がたくさん!という風景ではないでしょうか。だいたい神社は50、お寺は100近くもあると言われています。びっくりの数ですが、今回ご紹介するのは鎌倉でもっとも古い神社、甘縄神社です。この甘縄神社、実は鎌倉ではテッパンの足である人力車で通る定番ルートなのに、なぜかあまり知られていない穴場中の穴場なのです。場合によっては、ほぼ境内を独り占めできちゃうことも!?歴史上の人物からも慕われ、文学の舞台となるほどの魅力豊かな甘縄神社をご紹介します。
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名前にこめられた神社の由来
「甘縄神社(あまなわじんじゃ)」は、和銅3年(西暦710年)から続く、鎌倉最古といわれる由緒ある神社です。
「あまなわ」と少し不思議な響きの名前だと思いませんか?いにしえの響きのやわらかい言葉ですよね。でも、実は「あまなわ」って現代の私たちもよく使っている言葉なんです。
その正体は「和」。「平和」や「調和」など、「みんな仲良くしましょう」という意味を表すときに使う、あの「和」です。
現代では「わ」と読みますが、古くは「和なう(あまなう)」って読んでいました。「和なう」は「甘なう」とも書きました。
甘縄神社は海に近いところにあります。その昔、この地には海を越えていろいろな人がやってきました。異なる土地から来た人々と、既にこの地に住んでいた人々では、文化や考え方が違ったので、争いが絶えませんでした。
いつもいつも争いが絶えない日々を「なんとかしなければ!」と立ち上がったのが、この地に住んでいた「染谷時忠」という人でした。
みんなに仲良くして欲しい、そのためには、みんなが仲良く集まれる場所を作ろう!ということで「和なう(甘なう)」神社を作ったのです。
また、海で漁をするときに必ず使うのが「縄」です。「なう」の部分に「縄」を当てて、現在の「甘縄神社」という名前になったのでは・・・?とも言われています。
それでは「みんなが仲良くできるよう」に、と願いのこめられた「甘縄神社」。さっそく巡ってみましょう。
甘縄神社が見守る海
甘縄神社は、石造りのしっかりとした鳥居が、神域の始まりを教えてくれます。
その奥に、細く小高く続く参道と、境内に覆いかぶさるように生い茂る濃い緑が、とっても神秘的な雰囲気で、古くからこの地を見守ってきた神様の存在を感じさせてくれます。
甘縄神社は閑静な住宅地の裏山にあるので、とってもしずか。
その分、神社に近づけば近づくほど、山肌を行き来する風の音、鳥たちのさえずる声が、はっきり耳元まで聞こえてきて、なんだか神社が「山の音」で歓迎してくれてるみたいです。
さわさわとした枝葉の揺れる音を楽しみながら、石段をのぼって振り返ると、甘縄神社が見守る地を一望できます。
遠くのほうに海が見えるのがおわかりですか?
この海こそ、文学や映画やアニメなど、数々の作品の舞台となった超メジャー海岸「由比ガ浜(ゆいがはま)」です。名前をご存知の方、たぶん沢山いらっしゃいますよね。
全国的に知名度の高い海を見守っているのが、この甘縄神社なんです。
由比ガ浜の「ゆい」も、みんなで助け合おうねという意味の「結(ゆい)」からきているといわれています。
海からこの地にやってきた人と、もともと住んでいた人が仲良くしてほしい、そんな願いが海岸の名前にも込められているんですね。
段々状の拝殿と神殿
さて、階段を登ってまっさきに「どおーん」と目に入ってくるのが拝殿です。
簡素な色味を抑えた造りですが、ところどころ金色の装飾をあしらったりして、渋い雰囲気にキリッとアクセントの効いた、さすがの風格ですよね。
拝殿はその名が示す通り、私たちが拝むための建物です。普段私たちが、お賽銭を投げて、鈴をガランガランと鳴らす場所が「拝殿」です。
実は肝心の神様はこの建物には住んでいなくて、拝殿の後ろにある神様のお家「神殿」に神様はいます。
知らないと拝殿に神様がいると思い込んで、拝殿だけ見てUターン!という人もいるかもしれませんが、それではとってもモッタイナイ!
甘縄神社は、拝殿よりも数段高い場所に神殿が作られています。この拝殿と神殿が異なる高さで建てられる様式は、同じく鎌倉にある「佐助稲荷神社」という神社でも見られるレイアウト。
うやまう神様を、人間の位置よりも高い場所に祀るのは、古い神社で見られる様式なんですよ。
実は甘縄神社、この拝殿がちょっと特徴的なのです。それをご説明するには、いったん神様のお家である神殿をご説明しないといけません。
神殿の様式
さて、神様のお家は、人間の私たちが入ることはできませんが、甘縄神社では近くまでアプローチすることができるんです。
こちらは、拝殿に向かってすぐ右わきにある「秋葉神社」。この秋葉神社の階段を登っていくと、左側に曲がる小さな道があるんです。ここから神殿が本当に目の前!という場所に行くことができます。
角がまるくなった年月の感じさせる石段を登っていくと、神殿が目の前に!さあ、ここからじっくり神殿観察です。
神殿にもいろいろ造りのタイプがあって、いくつか見分けるお作法があります。一番最初に見るところは、屋根と入り口です。
甘縄神社は、屋根の面の部分に平行して入り口がありますよね。入り口に屋根が覆いかぶさるようになっています。この造りを屋根に「平行」して「入り口」があるので「平入り」と言います。
一方、屋根の面ではない方向、屋根の「端」に「入り口」がある造りを「端入り(つまいり)」または「妻入り(つまいり)」と言います。下の写真は妻入りの造りがよくわかる例です。
入り口がスパッと見えて、比べてみると見た目の印象がぜんぜん違いますよね。でも知らないと、あまり意識することはないのではないでしょうか。
そして、もう一度甘縄神社の神殿の屋根を見てみます。丸太のようなものが5本置かれていますよね。この丸太を「堅魚木(かつおぎ)」と言います。
普通、堅魚木が置かれるのは神殿までです。拝殿には置かれません。
と・こ・ろ・が、甘縄神社の拝殿は、神殿と同じように堅魚木が置かれているんです。
大事にされてきた拝殿
少し戻って拝殿を見てみましょう。見てください!堅魚木がゴロンゴロンとのっていますね。
その他にも、拝殿の屋根は神殿に比べて、屋根が大きく反り返っています。
本殿よりも人に見られることを意識してか、反りが効果的に威厳を醸し出しているようにも見えます。
実は先ほど紹介した「堅魚木」も、建物が堂々として見える要素として一役買っているんですよ。堅魚木を設置する目的は、視覚的な安定感を与えるため。繰り返しますが、通常は神殿までで、拝殿には置かれないんです。
甘縄神社のように拝殿にも堅魚木があるのは、土地の人々がこの神社を大切に大切に思ってきた証拠なのです。
少し珍しい造りなので、ぜひ屋根にも注目してみてくださいね。