鳥取県にある伝統的建造物群保存地区の板井原集落は、深い山々で囲まれた秘境のような地。集落へ行くための公共交通機関はなく、アクセス方法は歩いて峠道を越え集落に入るか、車で県道八頭中央線を行き、板井原トンネルを通って集落に入るかの大きく2つです。山腹を貫く細く暗いトンネルを抜けると、どこか懐かしく感じる山里の原風景が広がり、集落内の古民家カフェ「歩とり(ほとり)」に行けば、日常の喧騒を忘れられるまさに極上のひと時に。それでは早速、現代の日本人が潜在的に知っている「古き良き時代」の旅に出かけましょう。
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日本の原風景・板井原集落までの道のり
今回は車でのコースをご紹介します。車といっても、その道は楽なものではありません。険しい道が4kmほどに渡って続き、急カーブを繰り返しながら標高を上げていきます。道幅も狭く、対向車が来た際には、交わすのに一苦労するでしょう。
道沿いのガードレールにいくらかの安心感を覚えますが、それも2km地点くらいまで。途中から、命綱のような存在のガードレールも消え、かわりに「路肩注意」や「落石注意」を始めとする危険を知らせる看板が次々と目に飛び込んできます。
時速30km未満ぐらいの速度でようやく上り詰めると、そこに待っているのは通るのを躊躇してしまうような、薄暗く長いトンネルです。
歴史を感じさせるトンネルを前に不安が膨らみますが、ご安心を。トンネルを超えると、そこまでの険しい道はもうありません。日本の山里の原風景を残した、美しい板井原集落に到着です。
伝統的建造物群保存地区・板井原集落
まず目に飛び込んでくるのは、やはり茅葺き屋根の民家でしょう。
現存する茅葺き屋根の家はこの1棟だけですが、そのほかの主屋や土蔵も伝統的な手法で建設されています。また、集落内のほとんどの建物は築50年以上を経ており、中には築約300年を超える建物も残っています。
集落の中まで足を踏み入れると、畑や作業小屋、薪などが見られ、ところどころに昭和30年代のような日本の山村風景を感じることができます。
幅員6尺(2m弱)ほどの、昔から村内の主要な道路として使われている六尺道や、明治6年建築の一間社流造で覆殿(おおいでん)のなかに本殿をかまえる向山神社など、集落内には見どころが満載です。
他にも、地元の野菜や山菜を使用し、水車で精米したお米をカマドで炊いて食べることができる食事処「火間土」など、板井原集落ならではの食を感じることもできます。
古民家カフェ「歩とり(ほとり)」で日常の喧騒を忘れる
板井原集落の目玉的存在である茅葺き屋根のすぐ隣。そこに、思わず「ただいま」と言ってしまいたくなるような古民家の喫茶店ギャラリー「歩とり」はあります。
約100年前の古民家(養蚕農家)を復元した喫茶店で、店内も店外も情緒にあふれています。民芸品が飾られた玄関を開けると障子があり、その隙間からは囲炉裏が目に入ってきます。
奥へ進むとちゃぶ台に座布団、椅子の席もあり、なんとも言えない風情が漂っています。
玄関先の蚊取り線香の匂い、風が揺らす木々の葉の音、優しい光の照明。日々の喧騒を忘れ、心から落ち着ける空間。夏休みに都会から田舎のおばあちゃんの家に帰ってきた、そんな気分に浸れます。
集落内の食材や手作りパンなど、充実した「歩とり」のメニュー
お店の雰囲気はもちろんのこと、「歩とり」はメニューにも風情があります。私が実際にお店に行った際にはランチのメニューが2つあり、地元食材や手作りパンなど、どちらにもこだわりが感じられました。
- 菜食ごはんアイタルランチ900円
疲れた体に嬉しい、さっぱりとしたヘルシーな味わい。食べることで、体中にエネルギーが満ち溢れてくる、「歩とり」ならではのアイタルフード(野菜中心の自然食のこと)です。
- クロックムッシュランチ900円
自家製パンに豆乳で作ったベシャメルソース、若桜のナチュラルポークの手作りハムが挟まれたホットサンドイッチはボリュームも十分。頼まずにはいられない魅力があります。また、主食だけではなく、デザートやドリンクも充実しています。
かき氷の氷には、板井原の湧水が使われており、口どけの良い食感です。
ココアもオーガニックココアで牛乳と豆乳どちらかが選べ、どこまでも体に優しいメニューが揃っています。
山村の原風景の中にある、約100年を経た風情ある古民家カフェ。そこで食べる、体に優しくて美味しい料理。ここでしか味わえない極上のひと時に、心も身体も癒されてください。
- 【閉店】古民家喫茶店ギャラリー 歩とり
- 鳥取
- 住所:鳥取県八頭郡智頭町市瀬1947地図で見る
- 電話:0858-75-3017
おわりに
昭和30年代の山村風景を色濃く残している板井原集落、そして、そこならではの料理と雰囲気で癒してくれる古民家カフェ「歩とり」はいかがだったでしょう?
昭和や日本の原風景を知らない世代の関心も集める板井原集落。若者の心にもこの素晴らしさが染み渡るのは、日本人が潜在的に古き良き時代の日本の感覚を持っているからではないでしょうか。
老若男女がイメージとして持っている「日本らしい原風景」が板井原集落には現存しているのです。