アイルランド中部は、比較的平らな土地にゴロゴロとした岩がむき出しになった特徴的な地形をもち、遺跡や石で建てられた城も多く存在します。今回ご紹介するのは、そんな平らな土地にありながら丘の上にそびえ立つ、かつての要塞です。数世紀にわたる戦いの時を経て、現在は廃墟となった2つの要塞ですが、その威厳のある雰囲気は訪れる人々を魅了し続けています。アイルランド中世の人々の足音が聞こえてきそうな、哀愁漂う時空を超えた旅へとご案内します。
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天空の城「Rock of Cashel」とは?
平坦なティッペラリー州の土地に突如として現れる、高さ90mの丘。その上に建つのが、5世紀に起源をもつ要塞・Rock of Cashel(ロック・オブ・キャッシェル)です。
ロック・オブ・キャッシェルは、1,000年以上にわたって王室と宗教の権力の象徴として存在しました。5世紀時点ではこの地域の王が居住し、1101年になると教会に譲渡されます。その後17世紀初頭の3,000人を擁するクロムウェル軍の侵攻に至るまで、宗教の中心地として栄えました。
現在でも中世の面影を残し、大聖堂やケルト十字のある墓地、居室、礼拝堂の跡などが残されています。
Rock of Cashelの敷地内の、現在は廃墟となった建物群は、古い部分で12世紀、新しいものでも15世紀に遡ります。12世紀のものは、ラウンドタワーやコーマックの礼拝堂です。
建物群の中で最も広い範囲にあるのが大聖堂で、13世紀に建てられたものです。積み上げられた石と石の間から植物が生えたり、崩れた箇所も多く目立ちますが、大聖堂にはかつてステンドグラスがはめられていた窓も残り、当時の面影を遺しています。
大聖堂の外側にある墓地には、アイルランドを始めとしたケルト文化が根強い地域でのみ見ることのできる珍しい十字架があります。それがケルト十字です。ケルト十字が普通の十字架と異なるのは、キリスト教のシンボルである十字の交わるところに、太陽のシンボルである円環がある点です。
この円環はキリスト教にはないケルト宗教特有の輪廻の思想を表しているとも言われています。Rock of Cashelにある石でできたケルト十字も、他のケルト十字と同様、ケルト独特の渦巻き文様が細やかに描かれています。
丘の上から見る田園風景は、アイルランドにしては珍しく川や湖といった水の気配がありません。自然のものを使った垣根によって土地が区画され、どこまでも平らな草原となっています。この風景はおそらく当時からさして変わっておらず、時空を超えた中世アイルランドに想いを馳せる時間となるでしょう。
- ロック・オブ・キャッシェル
- アイルランド / 建造物
- 住所:Rock of Cashel, Co. Tipperary, Ireland地図で見る
ロック・オブ・キャッシェルの姉妹版がある?
Rock of Cashelに似た天空の城が、85km離れたLaois(リーシュ)州にあります。それがRock of Dunamase(ロック・オブ・ダナメーズ)です。
Rock of Cashelから一直線、車で国道M8号線を北上すると、高さ45mの小高い丘に建つRock of Dunamaseが見えてきます。歴史書を紐とくと、その名前が最初に書かれたのは西暦843年のことで、もともと要塞だったRock of Dunamaseがヴァイキングによって侵略されたとのことです。
その後ノルマン人がアイルランドに到着した12世紀には、Rock of Dunamase内に教会のホールや門が構えられました。17世紀、クロムウェル軍の侵略によって城は崩落しましたが、廃墟となった今でも当時の面影を残し、変わらぬアイルランド中部ののどかな田園風景を望めます。
Rock of Cashelと比べると規模は小さく、保存状態も劣りますが、味わいのある雰囲気でアイルランド中部の平原を横切る風を感じる、記憶に残る場所になるはずです。
- ロック・オブ・ダナメーズ
- アイルランド / 建造物
- 住所:Rock of Dunamase, Co. Laois, Ireland地図で見る