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⑬サガルティア
サガルティアは、現イランのヤズド辺りに存在した砂漠の王国です。先頭の人はラウンド帽、次の人はクーフィーヤを巻いて口元まで隠し、三番目の人はつばのない、耳当て部分を後ろに流した帽子を被っています。
東階段のレリーフの中で、一国の朝貢者の被り物が統一されていないのはサガルティアンのみです。個性豊かで自由主義であることの表れなのでしょうか。若しくは、朝貢者を選抜したのではなく、暇な人を適当に集めただけかも知れません。
使者は服を手にしています。また、写真にはありませんが牡牛も献上しています。
⑭バビロニア
バビロニアは、現在のイラク南部にあった王国です。旧約聖書にも出てくるバビロニアは、紀元前4000年には既に農耕が盛んとなっていたほか、法律、文学、宗教、芸術、天文学などが発達し、ペルシア帝国に敗れるまで古代オリエント文明の中心地でした。使者は、タッセル(房飾り)の着いた円錐形の帽子を被り、くるぶしまであるインナーの上にドレープのかかった半袖のローブを羽織っています。
献上品は、浅いボウルを持つ人と、端が美しくデザインされたブランケットのような織物。こぶのある牛も献上品となったようです。
バビロニアは、ペルシア帝国にその座を奪われこそしましたが非常に裕福で、ペルシア帝国軍の1/3の費用を賄っていたそうです。
⑮エラム
エラムは、イラン高原の山脈沿い西にある地域で、アケメネス朝時代には行政の首都となるスサを中心に住んだ人々です。歴史は古く、紀元前2000年にはエラム文字と呼ばれる楔形文字を使って記録を残しています。しかし、現代に至ってもすべての解読には至っておらず、何が書かれているのか未だに謎の部分も多くあるようです。
エラム人は、頭部にダイアデム(冠の一種)と呼ばれる装飾されたヘッドバンドを着けています。そして、現代では主に女性の着るカフタンドレスを身に着け、その上に腕裾部分がかなり広いマントを羽織っています。編み上げのハーフブーツも特徴的ですね。献上品は、弓と装飾の着いた短剣。短剣の持ち方が痛そうです。
そして、自ら進む大きなライオンと、子ライオンを胸の前で抱っこする使者の姿があります。子ライオンの目が可愛いですね。親ライオンは、子ライオンを心配しているのか、振り向いて様子を確認しているように見えます。
ライオンは、いつの世界でも権力の象徴でした。現代ではアフリカが主な生息地ですが、ペルシア帝国時代(紀元前)には、インドからギリシャまで広く分布していました。二つの弓と短剣も献上されています。
⑯アラビア
アラビアの献上品は、現代のアラブでもお馴染みのヒトコブラクダです。写真ではちょうど切れしまっていますが、タッセルの着いたドロメダリー(水を運ぶ袋)も献上されています。アラブらしいですね。連れて歩く使者は、片方の肩を出したドレープを身にまとっています。当時からとても暑かった様子が伺えます。暑い地域からの使者はほとんど帽子やクーフィーヤをしていませんが、これはペルシア人にとっては非常に珍しいファッションだったそうです。
⑰トラキア
トラキアは現在のブルガリア周辺にあった地域です。当時、現地で広く浸透していたとされるフエルトで作られたトラキア帽をかぶり、長袖のインナーの上に片袖のないチトン(ドレープがかった民族服)に身を包んでいます。
トラキアからの献上品は、二組のランスとラウンドシールド(円形の盾)です。
⑱イオニア
イオニアは、現在のトルコ南西部イズミル近くにあった地域です。レリーフは、イスラムワッチのようなものを被り、胴体部分は縦縞、腕の部分は横縞のインナーの上に片方の肩を出すローブを羽織っています。このあたりの上流階級はシルクを好んだことから、ロングの内服と外服に分かれたこのドレープある光沢の服には、シルク素材が使われていたのではないかと想像します。他国のレリーフと違い何故か耳が強調されています。耳に特長があったのでしょうか。
献上品は、浅型のリブ付きカップと、丁寧に畳まれたシルクと思われる織物生地。その後ろの二人が持っている横波型の丸いものは、毛糸玉かシルク玉なのではないかと思われます。
⑲リディア
リディアは、現在のトルコの西半分を支配していた大国です。被っているとんがりコーンのような円錐形の帽子が特徴的です。帽子から耳の後ろに垂れている紐を見ると、日本の烏帽子にも見えます。リディア人も耳が強調されています。当時のトルコ人は耳が大きかったのでしょうか?このレリーフを作成したペルシア人には印象的だったのかもしれないですね。
デザイナー「ISSEY MIYAKE」のファッションブランド「PLEATS PLEASE」のような、とにかく細かいプリーツの肘丈ロングインナーを着け、その上に片方の肩出しローブを羽織っています。足元には、つま先の尖ったハーフブーツを履いています。日本のビジネスマンもこのように尖った革靴を履いている人がいますよね。
献上品を携える一番目の使者は、グリフィンのついた小ぶりのアンフォラを両手に持っています。トルコワインが入っているのでしょうか?縦縞のデザインが素敵です。二番目の使者は平型の盃、三番目の使者はグリフィンの模られた金属リングを持っています。その後ろには馬二頭と戦車が続きます。
⑳カリア
カリアは、現在のトルコ南西部にあった地域です。カリア人は、長袖膝丈のインナーの上に片方の肩出しローブをはおり、長ズボンを履いています。
特徴のある立派な角を持った牡牛を献上しています。表情が他の動物より荒々しく勇ましく描かれており、農耕目的ではなくライオンとの闘牛鑑賞などの目的として使われたのではないでしょうか。
㉑リビア
リビアは、現在の北アフリカにあるリビアと同じ場所にありました。リビア人は髪型に特徴があります。前髪がピョンと前に跳ねているうえ、頭部はストレートで毛先は巻き髪の、イマドキでいう「ゆるふわ」な感じです。羽織っている足元まである長いローブには、端のすべてに鋭角な襞(ひだ)がついており高級感を漂わせています。また、手には肘まであるグローブを着けているようです。
そして、スパイラルした角が軽くウェーブしているクーズー(カモシカ)を献上品としたようです。この見事な角を持つ動物は、現代でもアフリカ大陸の北東部にしか生息しておらず、ユーラシア大陸では目にすることがなかったはずですので、これを見たペルシア帝国の歴代王は喜んだのではないでしょうか。また、馬二頭と車輪のついた荷馬車も献上されているようです。
㉒アレクサンドリア(エジプト)
エジプトは各国のレリーフの中でも損傷が激しく、上部半分が剥がれ落ちてしまっており、残念ながらお顔や手に持った献上物を確認することができません。場所はスキタイの上側です。
下半分だけ見ると、足のくるぶしまでくるロングの召し物を着けられていたようです。最後尾にいる動物の足は、前後足の長さから筆者はライオンではないかと思いますが、皆様はいかがでしょうか。一大文明を築いた大国ですので、きっと素晴らしい献上品を納めたのではないかと思われますが、エジプト人の表情や服装、朝貢品はどのような物だったかを知ることができないのは残念です。
㉓エチオピア
エチオピアンは、見た目の特長がうまく表現されています。髪型は強いくせ毛の短髪で、髭は生やしていません。片側の肩を出した腰丈のマントを羽織り、インナーにはくるぶし丈のロング巻きスカートを着けています。足の指が描かれており、サンダルを履いている様子が伺えます。先頭で案内するメディア人と比べ、極端に背が低いことも特徴の一つと言えるでしょう。
献上品である盃は他の国のものと違って蓋があり、使者は右手でそれを押さえています。何か零れてしまうようなものが入っていたのでしょうか。そして次の使者は、長い象牙を片方の手で肩に担ぎ、もう一方の手でオカピを引いています。いかにもアフリカらしいです。
各国朝貢使のご紹介は以上です。少し長くなりましたが、いかがでしたでしょうか。
ペルセポリスは、世界中に数多くある遺跡のなかでは珍しく、他の古代国の人々を如実に写したレリーフを見ることのできる世界で唯一の遺跡です。また、知ろうとすればするほどに紀元前世界の想像力は広がり、「遺跡は語る」を感じられる素晴らしい古代帝国遺跡です。
最後まで書いてみて、改めての筆者の発見は、ほとんどの古代国の名称母音が「a」で終わっていること。さらに、古来の男性の装いは、現代では主に女性の身に着ける服装や装飾であることです。
そして、これら各国朝貢使の特長を的確に捉え、彫って遺したかった古代人の強い好奇心と、現代を生きる自分とに重なる部分があり、2500年もの時は違えど人間的な感情の共通点に親近感を覚えました。
尚、各国のレリーフは『地球の歩き方』に掲載されているものと若干の違いがあります。
ペルセポリスの入場料は200,000イラン・リヤル≒500円です。
ペルセポリスへの行き方
日本からイランへ
ペルセポリスは、イラン南部の大都市シーラーズから60Kmほど離れた場所にあります。日本からイランまで飛行機の直行便はありませんが、周辺各国からシーラーズ国際空港へのダイレクトフライトがありますので、日本からの直行がある中東主要国やトルコのイスタンブールを経由しシーラーズにて入国することができます。
イランからシーラーズ、そしてペルセポリスへ
個人で行く場合、シーラーズ市内からミニバスで「Marvdasht」へ行き(日本円でおよそ30円)、そこで常時待機しているタクシーに乗り換えます。ペルセポリスの入り口まで200~300円を目安に交渉すると良いでしょう。シーラーズからペルセポリスへダイレクトに行く場合は、タクシー往復上限およそ5,000円で交渉すると良いです。シーラーズ市内からペルセポリスまで1時間ほどです。