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ペルセポリス最大のみどころ:アパダーナと東階段
ダレイオス1世によって建てられた、面積1,000㎡、高さ24メートルの支柱72本が聳える巨大な建築物です。ペルシア帝国歴代の皇帝が支配国の朝貢使を迎えて謁見し、外交関係と経済秩序を築いてきた宮殿です。
アパダーナ片隅にある東階段は、ペルセポリスの最大の見どころです。今からおよそ2500年前の各国朝貢使がどのような特徴をもち、どのようなファッション(衣装や装飾)を身に着け、どのような地産の貢物を献上したのか、各国ごと緻密に観察され彫られたレリーフが遺っているのです。
どのような人でも自分のレリーフを残すとなると誇張してしまいがちですが、他国の朝貢使を捉えたこれらのレリーフに忖度はなく、客観的に彼らの特長を捉えているため、古代人を知る上で非常に希少で、また他国の遺跡には見られない貴重なものです。オリエントを統一した強大な朝廷のもとに各国から集まる人々があったからこそのレリーフともいえますね。
尚、各国のレリーフはレバノン杉で区切られており、その先頭にいる者はペルシア人、もしくは近隣の大国メディア人の案内係です。ペルシア人は四角いストレートキャップ、メディア人は丸い帽子を被っています。案内係とその次に描かれている各国の朝貢使は手を繋いでいます。これは、朝貢使を迎える朝廷が賛辞を呈している表われです。
それでは、ペルシア帝国支配下にあった古代オリエント歴代各国の特長を、筆者私見も交えてご紹介したいと思います。
- 出典:www.openstreetmap.org© OpenStreetMap contributors
①ソグディアナ
ソグディアナは、現在のウズベキスタン・サマルカンド辺りのシルクロードにおける東西要衝となった古代都市。ペルセポリスからは最も遠い国の一つです。メディア人に手を引かれたソグディアナ人は、頭に「クーフィーヤ」を巻いています。よく見ると額部分が二重になっていますので、ターバンを巻いた上に着けているのでしょう。
クーフィーヤは、現代でもアラビア半島を中心に使われている正方形の布です。
筆者は、中東を旅した際に度々クーフィーヤを購入し、スカーフにしたりテーブルクロスにしたり、何かと使い勝手が良く重宝しています。
古代から変わらず主に、頭に巻く頭巾として使用され、中東を中心に国や地域によっても色や巻き方は様々です。因みに日本製のクーフィーヤは質が良く、現地でもよく売れているようです。
- 出典:commons.wikimedia.orgRod Waddington from Kergunyah, Australia, CC BY-SA 2.0
- 出典:commons.wikimedia.orgYves Picq http://veton.picq.fr, CC BY-SA 3.0
- 出典:commons.wikimedia.orgatphalix, CC BY-SA 2.0
パレスティナの故アラファト議長の巻き方は、地位の高い人のみ許された巻き方です。
- 出典:commons.wikimedia.orgCopyright World Economic Forum (www.weforum.org) swiss-image.ch/Photo by Remy Steinegger, CC BY-SA 2.0
このあとも度々クーフィーヤを巻いた古代オリエント人は登場しますが、少しずつ巻き方の違うところも興味深いです。
先程ご紹介したレリーフからソグディアナ人の服装は、膝丈のチュニックは紐ベルトで腰を締め、ゆったりしたズボンを履いており、遠方から砂漠や平原を超え、馬に乗って来たであろうことが伺えます。ソグディアナ人は眉毛が極端に吊り上がり、少し険しい顔をしているように見えます。全使者のチュニックの裾下から、短剣の先が見えており、全体的に武装スタイルで疑い深さや警戒心が垣間見えるように思います。
献上品はアキナケス(剣)や弓、斧などの戦闘道具と、楕円形の装飾リングです。最後尾には、たてがみの立派な馬がいます。
②バクトリア
バクトリアは、ソグディアナの南方に位置し、現在のアフガニスタンやタジキスタン辺りを中心としたシルクロードのオアシス都市でした。使者は、現代のサッカー選手が使用しているような細いタイプのヘッドバンドを着用しています。髪と長いひげはストレートで、よく見ると耳にフープイヤリングを着けています。フープには長楕円形の何かがぶら下がっていますよ。服は騎兵スタイルで、ゆったりしたズボンをブーツに入れています。全体的に穏やかな印象で、ちょっとカッコイイ系です。
献上品は、深型と平型のカップ。この中に入っているものが献上品なのか、これ自体が献上品なのか不明ですが、デザインが凝っていて素敵ですので、カップ自体が美しい代物だったのでしょう。
バクトリアは、シルクロードのオアシス都市らしくラクダが有名です。このフタコブラクダは「バクトリアラクダ」といい、こちらも堂々の献上品です。
③アーリヤ
アーリヤ人は、中央アジアのステップ地帯を出自とする民族で、現代においても超美形が多いとされています。使者の皆様も大きな目が強調されて描かれていますね。カラクム砂漠の乾燥と砂嵐から身を守るため、被っている「タゲルマスト」は綿素材のターバンで、長さは10メートルほどになります。こちらも現代においても着用されていますよね。
タゲルマストを口まで覆ったアーリヤ人は騎馬服を着用し、ゆったりとしたズボンを膝上まであるロングブーツに入れています。ペルセポリスまでの道中、砂嵐などから全身をプロテクトする必要があったのでしょう。砂塵・砂埃対策はバッチリですね。
アーリヤ人の献上品は、ボウルに入った何かとフタコブラクダ(バクトリアラクダ)です。
④パルティア
現イラン北東に位置したパルティアは、ペルシアのアケメネス朝が滅びた後に起こったアルサケス朝の王国です。アケメネス朝時代は周辺一帯にヘレニズム文化が広く伝わりましたが、王朝がパルティアに移ると、芸術や衣服などにイランの伝統文化を復権させる動きが見られたといわれています。
使者は、アーリヤ人と同じく頭部にタゲルマストを巻き、耳から口元まで覆っています。アーリヤ人との違いは、巻いたタゲルマストの頭頂部が丸いことです。巻き方に違いがあったのでしょうか。よく観察していますね。パルティア人も騎馬服を着てズボンを膝下までのブーツへ入れています。
使節団としては少ない3人の朝貢使の貢物は、両手に持った2つの盃とラクダです。(え?これだけ?)
⑤ガンダーラ
ガンダーラ人は、膝丈のチュニックの上に、脇下からスリットが入った踝(くるぶし)まであるロングケープを羽織っています。髪型と髭の様子から直毛ではなく、天然パーマかウェーブヘアをヘッドバンドで留めています。毛量が多そうです。髭も相当、濃そうです。
足元はトング・サンダルを履いており、ふくらはぎの筋肉が強調されています。走るのが早そうで長距離走にも向いてそうです。どことなくオシャレに感じるのは筆者だけでしょうか。さすがヘレニズム美術が発展しただけあります。
献上物は、先頭を歩くこぶのあるバッファローと、5つの長いランス(槍)、1つのシールド(盾)です。強そう。
ヘレニズム文化の発展したガンダーラでは、美しい仏像や仏塔などが世界に広く知られていますが、当のガンダーラ人に関する情報はほとんどありません。この彫刻は、ガンダーラ人の特長を知る上でも貴重なレリーフです。
⑥アラコシア
アラコシアは、現在のアフガニスタン南部からパキスタンにかけて存在した国です。服装は現アフガニスタンの男性民族衣装である「ペラン・トゥンバン」とあまり変わらないように見えます。頭部にはクーフィーヤを巻き、後ろで結んでいる様子が彫られています。耳にはイヤリングをしているようです。
使者が両手に持つボウルには何が入っているのか不明ですが、アラコシアは路地物のメロンやザクロなどがよく採れたので、フルーツなどが献上されたかも知れませんね。ラクダも献上されています。