小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、アイルランドとギリシャ人の間に生まれた執筆家であり、日本の民俗学者です。アイルランド神話の口承文学に興味をもち、日本滞在時には、『耳なし芳一』や『雪女』といった日本に伝わる怪談を蒐集(しゅうしゅう)して、英語で世界に紹介しました。のちに日本人に帰化し、文学を通して日本人の精神性に迫りました。今回は、小泉八雲のルーツであるアイルランドと、八雲が深く愛した日本の風景、島根県松江市に遺された、小泉八雲の足跡を追います。
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小泉八雲はどんな人?
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン/1850年~1904年)は、ギリシャ人の母とアイルランド人の父を親にもつ、ギリシャ生まれの新聞記者であり、日本の民俗学者です。日本滞在を含む生涯で翻訳、紀行文、再話文学を中心に約30の著作を遺しました。
のちに、日本人女性のセツと結婚して日本人に帰化し、日本名を小泉八雲と名乗りました。
小泉八雲の人生は、旅と共にありました。ギリシャのレフカダ島で産声を上げた八雲は、アイルランドで養育されました。イギリスで学生生活を送った後は、職を求めて移民としてアメリカに渡り、新聞記者として働きました。その後アメリカや中南米の島で生活をし、日本にやってきます。
日本では、日本の怪談話を日本各地を巡って蒐集した『怪談』や、日本人の精神性を観察して記した『知られざる日本の面影』等を英語で著しました。
中でも奇怪文学作品集『怪談』には、妻のセツや各地の人々の口承による『耳なし芳一』や『ろくろ首』、『雪女』といった有名な話を多く収めており、鋭い視点によって、日本人の心を読み解こうとした観察力や表現力は、高く評価されています。
小泉八雲のルーツを辿るアイルランドの旅
アイルランドでは、2歳~13歳までを大叔母と共に首都ダブリンで過ごしました。このとき、お化けや幽霊の幻視体験をしたと言われています。また、アイルランドに伝わる怪談やケルト口承文化も、後に小泉八雲に大きな影響を与えました。
そんな八雲にまつわるアイルランドの名所をご紹介します。
小泉八雲の祖先が司祭を務めた、セント・アン教会
ダブリン中心地の歩行者天国グラフトン通りから1本横道に抜けると、八雲の叔父が司祭を務めたセント・アン教会があります。ここは18世紀に建てられ、小説『ドラキュラ』の作者ブラム・ストーカーが結婚式を挙げた場所でもあります。
赤い重厚な扉から入ると、こぢんまりとした厳かな雰囲気が漂っています。
2015年には、「小泉八雲・朗読の夕べ-稀人(まろうど)-彼方より訪れしもの-」という公演が行われました。
このイベントは、八雲が過ごした島根県松江市出身の俳優・佐野史郎さんと、ギタリスト・山本恭司さんが出演し、八雲が伝えた『怪談』のストーリーテリングを音楽と共に愉しむイベントで、地元の人たちを魅了しました。
幼少期に過ごしたダブリンの家
南ダブリンのラネラ地区には、小泉八雲が暮らした家が2軒、残っています。どちらも同じ地区にあり、2軒は徒歩2分程度の距離です。
現在は小泉八雲が住んだことを証明するプレートが掲げられ、家を買い取った八雲ファンのアイルランド人が暮らしています。アイルランドでは一般的なタイプの住居で、カラフルなドアに縦長の窓のある2階建ての家です。
残念ながら、内部を見ることはできません。家の壁には、ここに小泉八雲が幼少期に住んでいたことが書かれたレリーフが掲げられています。
アイルランド文学の中心地・作家博物館
ダブリン市街地北部には、作家博物館(Writer’s Museum)があります。ここには、アイルランドが生んだ著名な作家にまつわる展示や、直筆の手紙、原稿などが収められています。そこに八雲の心の故郷・島根県松江市が寄贈した、小泉八雲の肖像画や直筆の原稿等が飾られています。
『ガリバー旅行記』を書いたジョナサン・スイフト、『ユリシーズ』や『ダブリナーズ』など、アイルランドの人々の暮らしを描いた作品が有名なジェームズ・ジョイスなどと共に、アイルランドの著名な作家として小泉八雲も殿堂入りしています。
- 作家博物館
- アイルランド / 博物館・美術館 / 博物館
- 住所:18-19 Parnell Square North, Dublin 1, Ireland地図で見る
- 電話:01-872-2077
- Web:http://www.visitdublin.com/see-do/details/dublin-w...
日本人の精神性の神髄に迫った島根・松江での暮らし
小泉八雲は1890年、アメリカの出版社の通信員として来日します。その後、熊本や松江にて英語教師として教鞭をふるい、神戸そして東京にて過ごし、東京で亡くなりました。
特に、日本人女性セツと出会い、結婚するに至った島根県松江市は、八雲の心の故郷となりました。神事・幽事といった目には見えない世界との交信を大事にした松江は、小泉八雲がアイルランドで過ごした時に感じた世界と似ており、山陰地方での体験を『神々の国の首都』としてまとめました。
小泉八雲が聞き集めた『怪談』にまつわる場所も多くあります。今回は小泉八雲の生涯や、松江での暮らしぶりを今に伝えるスポットをご紹介します。
松江時代の暮らしぶりを知られる小泉八雲旧居
島根県松江市の城下町、松江城のふもとの北堀に、明治時代に小泉八雲が住んでいたお屋敷「小泉八雲旧居」があります。
現在一般公開されているのは、八雲の居間、書斎、セツ夫人の部屋、それらを取り囲むようにある庭です。
八雲の書斎には、彼が使っていた机のレプリカがあります。彼の机の高さが高いのは、八雲は幼少時代に左目を失明しており、目が悪く目をかなり近づけて文字を書いたり読んだりしていたためです。
- 小泉八雲旧居
- 島根 / 建造物 / 一人旅 / 歴史的建造物
- 住所:松江市北堀町315地図で見る
- 電話:0852-23-0714
- Web:http://www.matsue-tourism.or.jp/kyukyo/
八雲の生涯を辿る、小泉八雲記念館
小泉八雲旧居に隣接して、小泉八雲記念館があります。
1階の前半はラフカディオ・ハーンが小泉八雲となるまでの生涯を追う展示室となっており、小泉八雲の遺品、例えば、喫煙小物や旅券、英語教師としての契約書といった書類、虫かごや取材メモが展示されています。
1階後半部分は、小泉八雲の作品の世界に浸れるエリアとなっています。八雲が口承によって書き上げた怪談の数々を、松江出身の佐野史郎さんが朗読するブースや、八雲の作品が数か国語に翻訳されている本の展示等があります。
2階には、小泉八雲の作品を集めたライブラリーとなっており、入館者は誰でもゆったりと本を読むことができます。
八雲の世界感に浸れる、魅力が凝縮された記念館です。
- 小泉八雲記念館
- 島根 / 博物館 / 雨の日観光
- 住所:島根県松江市奥谷町322地図で見る
- 電話:0852-21-2147
- Web:https://www.hearn-museum-matsue.jp/