数々の寺院が立ち並ぶ古都・鎌倉。いざ鎌倉!と思っても、調べてみると見どころがありすぎて、どこに行けばいいのか悩んでしまいます。もちろん全てのお寺に行ければ悩む必要はないのですが、限られた時間で鎌倉を楽しみたいのなら、ぜひ「円覚寺」に行ってみてください。鎌倉寺院の特徴をバランス良く持ったお寺なので、円覚寺を見るだけでも十分楽しむことができますよ。
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円覚寺が持つ鎌倉寺院の要素とは?
鎌倉寺院の主な特徴に、禅寺、歴史、景観美があります。円覚寺が持つその特徴を、ささっとご紹介しましょう。
禅寺
鎌倉時代に幕府が制定した代表的な禅寺を「鎌倉五山」と言います。「第1位 建長寺」「第2位 円覚寺」「第3位 寿福寺」「第4位 浄智寺」「第5位 浄妙寺」と、位と共に制定されました。円覚寺は、第2位に位置付けられた立派なお寺なのです。
禅寺には、用途ごとに建物をわけているという特徴があり、これからご紹介する円覚寺も、修業の場や住居など用途にわけて建てられています。
歴史
円覚寺は、鎌倉幕府8代執権・北条時宗が創建した歴史ある寺院です。かつてモンゴルと日本が戦った時に、その両方の戦没者を追悼するために、建立したと言われています。
景観美
鎌倉寺院は、庭園や池、周囲の山々からの借景など、景観美を意識して作られている寺院が多く、また境内に植えられている木花は季節折々に纏う色を変え、訪れる人々の目を楽しませてくれます。円覚寺は、この要素を全て持ち、季節ごとに何回でも訪れたくなる寺院でもあります。
さあ、それでは円覚寺をまわりながら、見どころをご紹介してまいりましょう。
ちなみに、読み方は「えんがくじ」です。円覚寺の「覚」は普段「かく」と読むことが多いことから、たいていの人が境内で「えんかくじ」と誤って呼んでいます。これを読んだあなたは、境内でツウっぽく「えんがくじ」と言いながらまわってくださいね。
三門
円覚寺の境内に入って、さっそくあらわれるのは三門。門の形をよく見てみてください。門の柱が3つの区画にわかれていますね。こういう形状を「三門」といいます。
よくお寺の門を「山門」と言いますが、それとはどう違うかご存知ですか?
お寺にはふつう「〇〇山」と呼ばれる山号がついていて、その入り口の門という意味で「山門」といいます。「山門」は、お寺の門として広く使われる分類名で、「三門」は形状の違いからみた分類名なのです。
三門はその3つの区画に様々な仏教の教えをこめています。三門は正式には「三解脱門」といい、三解脱は、3つの苦しみ(欲望、怒り、愚痴)から解脱しようという考え方です。三門をくぐることで解脱できると考えられています。
通ってみると、「あら不思議、解脱してる!」とはいきませんが、門の意味を知ったうえでくぐると、少し自分の日々を振り返ってみようか、という気になるから不思議です。
円覚寺の三門は、その内部の装飾もすばらしいので、じっくりと、時間をかけて見ておきましょう。
仏殿
ビャクシンの木々が、参道の両サイドをどっしりと守り固める奥に、崇高な気配を漂わせた仏殿があります。
仏殿にはご本尊がおさめられていて、「宝冠釈迦如来」が安置されています。
この「宝冠釈迦如来」は、読んで字のごとく、冠を被った釈迦如来です。
釈迦如来とは、仏教の開祖であるお釈迦様を模したもので、お釈迦様が修業しているときのお姿をしています。そのため、質素な衣服をまとい、装身具はつけないのが基本です。でもこちらは華やかな冠を付けていますね。けっこう珍しい釈迦如来なんですよ。
こんどは、そこから上を見てみましょう。天井には猛々しい姿の龍が我々を見下ろしています。お寺をめぐっていると、こうした雲龍図を見ることがあります。
この雲龍図にはどんな意味がこめられているかご存知ですか?龍は仏教を守護する神様です。天井にいる龍は、人々に仏法の教えを雨のように降らせると言われています。
選佛場
仏殿の横には、茅葺屋根に白壁の選佛場があります。
選佛場とは、読んで字のごとく「佛(仏)を選びだす場所」という意味で、修行僧の坐禅道場として使われています。
中に入ってみると、坐禅の場ということで、内部は広々とした畳敷きとなっています。
坐禅場の奥中央に位置するのは、薬師如来像です。薬師如来と言えば、なんとなく座っているお姿のイメージがありませんか?
こちらの薬師如来は麗しげな立ったお姿です。全体のたわやかな印象とは対照的に、意志の強そうなしっかりした眼差しに、ついつい時間を忘れて眺めていたくなります。
方丈
選佛場から少し歩を奥に進めましょう。先には方丈があります。方丈とは、住職が居住する場所のことをさします。
円覚寺では、方丈を法要、説法、座禅会といった多目的な行事ができる場として使っています。
さあ、方丈の敷地内に入ってみましょう。広々とした前庭と方丈内部には、思わずキョロキョロしてしまう要素がたくさんあります!
百観音霊場
一番最初に目がいくのは、百観音霊場と呼ばれる石像群です。
30体あまりの観音様の間には、平らな石で整備された歩道があって、その一つ一つを間近で拝見することができます。
観音菩薩とは、「音を観じる」菩薩のことで、この「音」とは苦難の中にいる人々が念じる声のことをさします。観音菩薩はさまざまな苦難の声を聞きつけ、解脱させる手助けをしてくれるため、幅広い神徳をお持ちです。
そんな懐の深い観音様の間をゆっくり歩いていると、なんだか忙しい日々で摩耗した心が、ゆっくりと癒される感じがしてきます。
長い年月を経たであろうお姿には、ところどころ崩れている部分もあるものの、慈悲にあふれた表情が心にじんわり染み入ってきます。
ビャクシン
百観音と同じくらい敷地での存在感をアピールするのは、ビャクシンの大木です。
鎌倉市の天然記念物にも指定されている威風堂々とした姿です。
このビャクシンは、円覚寺の初代住職が植えたとの言い伝えが残っており、およそ700年以上の時を重ねた木だと言われています。
幹の中心が他とは色が違いますが、これは樹木医による治療の跡なのだそう。病を乗り越えて、今この時代も幹を延ばし続けている力強さに心が打たれます。
唐門
ビャクシンと百観音の間には通路があり、その通路を外側にたどっていくと、唐門があります。
写真は、唐門を前庭からではなく、外から撮影したものです。
唐門は、なんとなく文字のイメージから「唐(昔の中国の王朝の名前)」様式の装飾の門と思いがちで、ついついその装飾に目が行ってしまいますが、実は見るべきポイントはそうではないのです。
屋根のラインを見てください。中央がかまぼこのように盛り上がり、外側にいくにつれて緩やかに跳ね上がっています。この独特なカーブを持つ屋根を唐門といいます。
方丈
前庭を楽しんだら、いよいよ方丈に入っていきましょう。
広々とした畳敷きの空間の中央にご本尊が安置され、奥には、何か絵のようなものが掛けられています。
少し離れたところから拝むことになりますが、ご本尊の釈迦牟尼坐像が見えます。
その手は禅定印(ぜんじょういん)と呼ばれる、両手の指をまっすぐにした状態で重ね合わせた印を結んでいるように見えます。これは、お釈迦様が瞑想する姿をあらわしたものと言われていて、瞑想中の穏やかな表情は、私たちの心の深くに、厳かに何かを語りかけているようです。
その真横は博物館のような展示スペースになっていて、訪れた日は五百羅漢図のレプリカが展示されていました。
羅漢とは、悟りを開いた高僧のことで、様々な羅漢たちのお話が一枚一枚の絵に描かれています。少し面白い描写を発見しました。
こちらの羅漢図、なにやらビームを放っているようにみえませんか?実はこの羅漢図の近くには説明書きも添えられていて、それによると、一人の羅漢が指先から光線を放っているとハッキリ書かれていました。羅漢すごすぎます!
庭
方丈の裏側に回ってみると、中庭が見えます。
池を中心に、苔が覆った部分と、その外側を枯山水が囲んでいます。一回見ただけで、景観美の要素がいくつも詰まっている、とっても贅沢なお庭です。
その奥の山々からの借景と、手前にある妙香池の景色が重なって、さらに見応えを深めています。自然な姿のようでいて、細部に気を配って作られたこの景色は、ついつい何回でも足を運びたくなる魅力を持っています。