島根県松江市の観光で、必ず食べたい郷土料理とお店をご紹介します。松江に暮らす人々を支えてきた、湖と海の恵みをお腹いっぱい感じてみませんか?「宍道湖七珍(しんじこしっちん)」と呼ばれる、松江ならではの七食材も解説します。
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【1】シジミの煮付け
シジミといえば、赤みそを使ったお味噌汁が定番ですが、松江ではその他にも、色々な食べ方をされています。「シジミの煮付け」は、上品で甘じょっぱいタレが、たっぷり絡んだお料理です。
残ったタレはご飯と炊き合わせて、「シジミ雑炊」にもなります。シジミの香りと、栄養分が染み出たリッチなお食事です。卵のコクと合わさって、一層優しい風味になります。体が温まるメニューです。
宍道湖とシジミの繋がり
松江市には、市のシンボルともなる「宍道湖(しんじこ)」があります。日本で七番目に大きな湖です。淡水(川からの水)と、海水(海からの水)が入り混じったタイプの湖で、汽水湖(きすいこ)に分類されます。
湖の西側からは、斐伊川(ひいかわ)の淡水が流れ込みます。斐伊川は、奥出雲町にある船通山(せんつうざん)が源流となっています。出雲平野をとおり、宍道湖まで水が流れてきます。
湖の東側からは、中海(なかうみ/宍道湖に隣接する湖)を経由して、日本海の海水が入ってきます。このような地形のため、宍道湖には、海の魚、川の魚、汽水湖にしかいない魚など、約100種類以上が生息し、豊かな生態系を維持しています。
日本に生息するシジミは3種類(ヤマトシジミ、マシジミ、セタシジミ)です。このうち、宍道湖のような汽水湖で生息できるのは、ヤマトシジミのみとなっています。ヤマトシジミは、3種類のなかで、最も味がよいと評判があるのだとか。
ちなみに宍道湖で採れる海産物のうち、約90パーセントがヤマトシジミです。数字を見ると、お魚よりもシジミ漁が圧倒的に盛んな様子が分かります。とはいえ、シジミを守るために、漁師さん(宍道湖全域で300人程度)には、たくさんのルールが設けられています。
例えば、漁をしてよい時間帯は、朝の数時間のみ(季節により変動する)、1日に捕獲してよい量は、1人1日約90キログラムまで等々。さらに、水深4メートル以上では、シジミは生息できないため、宍道湖のなかでも、浅めの沿岸部でしか漁はできません。その他の魚介類の産卵場所を確保するために、活動場所を制限するような規定もあるそうです。
補足ですが、シジミは年々減少傾向にあり、現在も原因不明の、へい死(突然死ぬこと)が起きているのだとか。限りある資源を大切に頂きたいですね。
【2】スズキの奉書焼き(ほうしょやき)
「奉書焼き」とは、ムニエルのようなお食事です。スズキを奉書紙(ほうしょがみ)に包んで、蒸し焼きにします。奉書紙とは、昔のお侍さんが必ず持ち歩いていた紙で、物を包んだり、字を書いたりと、様々な使われ方をしていたものです。
袋を開くと、大きな切り身が顔を出します。薬味は、かぼす汁、もみじおろし、ネギ、醤油ベースのタレです。少しずつ切り身と絡めながら頂きます。白身魚のあっさりした風味が特徴です。歯ごたえは、全体的にシコシコしていて、内臓部分はプリンプリンの絶品です。
奉書焼きの由来
江戸時代に活躍した7代目松江藩主、松平治郷(まつだいらはるさと)の治世にまでさかのぼります。宍道湖のほとりを馬で駆けていたところ、漁師さんが焚火にスズキを直接放り投げて、焼いて食べていました。それを見て美味しそうだと感じた松平は、漁師にその旨を伝えます。漁師は直接焚火で焼いたものなど、差し上げられないと謙遜し、断ります。
その際、機転をきかせた松平のお供が、持ち合わせていた奉書紙をさっと取り出し、漁師さんに手渡しました。漁師さんは、無事スズキをくるんで焼くことができ、松平は大層喜んで食べた、という話が語り継がれています。
スズキは縁起のよい魚
スズキは、セイゴ→チュウハン→スズキ、と成長するにつれて呼ばれ方が変わる、出世魚(しゅっせうお)です。縁起物とされ、結婚式やお祝いの場で食されることが多いのだとか。
栄養素ではビタミンDが豊富で、カルシウムの吸収を助けますので、骨を丈夫にするのに有効です。イライラにも効きます。
【3】ウナギのタタキ
うな重はもちろんのこと、宍道湖近辺では珍しいウナギ料理もあります。「ウナギのタタキ」は、生姜とネギの風味が合わさって、プリプリした食感が楽しめます。薄く延ばされたウナギは、皮がむっちりしていて、口の中でとろけます。
ちなみにウナギは、ビタミンAが豊富で、皮膚を正常に保ち、修復する役割を果たします。DHA(ドコサヘキサエン酸)も多く、脳細胞の成長を促進したり、痴呆を予防する効果が得られます。ウナギ100グラムを食せば、一日の理想摂取量をカバーできてしまうのだとか。
ちなみに宍道湖に生息しているウナギは、ニホンウナギです。カゴ、定置網、竹筒などを使って、漁獲しています。昼は岩穴などに隠れていますが、夜になると動き出し、小魚や甲殻類などを食します。冬になると、泥底に隠れていることが多いそうです。
宍道湖近辺の飲食店では、宍道湖に生息するニホンウナギを頂けることもありますが、実はそのケースは稀です。大半が養殖ウナギを使用しているか、天然物と養殖物をミックスしているのだとか。理由は、ニホンウナギの数が減少しているからです。
ニホンウナギは絶滅危惧種
2014年、ニホンウナギは絶滅危惧種として認定され、レッドリストに掲載されています。そもそも絶滅危惧種とは、1948年創立の国際的な自然保護団体「国際自然保護連合(IUCN)」が定めているものです。スイスに本部があります。1978年より、日本の環境庁(当時)も加盟しています。
絶滅危惧種に指定されていても、法的拘束力はなく、すぐに食用禁止となるわけではありません。ただし場合によっては、別の国内法もしくは国際条約で規制される可能性も出てくるのだとか。現在の課題は、とにかくウナギの個体数を正確に把握することと、持続可能なシステムを作ることだそうです。
国際条約とは、ワシントン条約(正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」)を指します。英語では、「Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora」と表記され、頭文字をとり、CITES(サイテス)と呼ばれることもあります。2019年5月にはスリランカで会議があり、今後のウナギの対応も協議されるとのことで、注目しておきたいイベントです。
「喰う喰われる」の関係性だけでなく、同じ地球に住まう生き物同士として、「幸せな共存」の道を探っていきたいですね。絶滅危惧種については、こちらのサイトで分かりやすく紹介しています。
【4】モロゲエビの唐揚げ
松江で食されるのはモロゲエビです。モロゲエビとは松江独自の呼び方で、標準和名をヨシエビと言います。最大15~19センチと大ぶりになります。5センチ前後の小サイズのエビを、唐揚げにして頂くことが多いです。
ほどよい厚さの衣が被り、ほんのり塩気が付いたエビは、何個も口に運びたくなる味です。おつまみにぴったりですので、お酒とともに頂くのがおすすめです。
エビで食物繊維がとれる
小ぶりのエビを唐揚げにすると、殻やシッポごと頂くことができますので、カルシウムの補給になります。カルシウムというと、チーズやヨーグルトといった乳製品が思い浮かびますが、実はエビやヒジキなど、海産物にも豊富に含まれています。
さらにエビは動物性食品には珍しく、動物性食物繊維(キチン)が豊富に含まれています。お便通を整えたり、食事中のコレステロール吸収を防いだり、肥満防止にまで効果があります。