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アルビール考古学博物館
こちらは、アルビールにある考古学博物館(Erbil Civilization Museum)です。
メソポタミア文明を語るうえで欠かせない、当時の遺物が展示されている貴重な博物館です。アルビールのこの博物館は時代に翻弄されてきました。1964年にアルビール内に設立された当初、展示物は少なかったのですが、バグダッドの博物館にあった考古学の遺物を永久貸付金としてこの博物館に移したことで、コレクションは飛躍的に増えました。
1970年代半ばにアルビール城塞の美術館へ移設しましたが、イラク-イラン戦争(1980 - 1988年)、1990年のイラク軍によるクウェート侵攻と1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争、また、その後のクルド人による暴動や内戦で、実に多くの作品が失われてしまいました。
その後、移転に次ぐ移転で現在の場所に落ち着きましたが、建物は比較的小さく、展示物も少なくなってしまいました。残念です。
館内は3つのホールに分かれ、時代ごとに展示されています。
最初のホールには、紀元前2000年の前史時代から紀元前2世紀の初めまで、旧石器時代、Jarmo、Halaf、Samara、Ubaid、Uruk、Eridu、Dynastic初期、Akkadian、およびNeo-Sumerian時代の遺物を見ることができます。
2番目のホールは、Urartian、Hurrian、Assyrian、Seleucid、およびHatra時代の遺物を展示。
3番目のホールには、サッサン時代とイスラム時代の遺物が展示されています。
開館時間は月曜から木曜日の9AMから1PMまで。入場料は無料です。
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サミ・アブデュルラーマン公園
サミ・アブデュルラーマン公園(Sami Abdulrahman Park)は、アルビールの街の西側にある非常に大きな公園です。Google mapで見ると、アルビールの街の1/10を占めるくらい大きいことが分かるかと思います。
敷地内は広すぎるため、公園入口にはレンタル自転車があります。1時間300円程度の料金ですので、園内を回られる方は、ぜひ借りることをお勧めします。レンタルの際には、身分証明書(パスポートコピーでも可)が必要です。
公園内はいくつもの大きな森があり、2つの湖、バラ園、レストランや遊具のほか、ランニングトラック、屋外ジム、ボルダリングなどのスポーツコーナーも充実しているなど、家族連れで過ごすにも絶好の場所です。
ちなみにこちらの公園の名前は、2004年2月1日に自爆テロで殺害された、サミ・アブデュルラーマン氏にちなんでつけられました。
アルビールで起きたこの2004年の大規模な爆弾テロでは、117名もの市民が死亡、221名が負傷しており、公園内には慰霊碑が建てられています。
園内には“Freedom is not Free”という石碑もあります。この平和は決して当たり前のことではないのだということを想起させます。当時のアルビールは、日本人の我々にとっては想像を絶する環境だったのかもしれません。
※石碑には98人と書かれていますが、このテロでは117人が犠牲になっています。
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ヤジディ教の聖地Lalish(ラリシュ村)
続いて紹介する「ラリシュ」という村は、アルビールより車で3時間ほど北へ向かった所にあり、渓谷に囲まれてひっそりと存在する小さな村です。この村は、クルド少数派の信仰する宗教ヤジディの聖地としても知られています。
ヤジディ教とは
ヤジディ教は、イラク北西部の山岳地帯を中心に信仰されている民族宗教です。教義は口承によるため、明らかにされていない部分も多くあり、ゾロアスター教やメソポタミアの伝統儀式が入り交じり、キリスト、ユダヤ、イスラム教などの影響を受けているといわれています。
ラリシュはヤジディ教徒にとっての地球の中心とされています。生涯に少なくとも一度はこの地を訪れて6日間の巡礼を行い、寺院や教祖ムサフィルの墓に参ることが推奨されています。
ヤジディ教徒の迫害
ヤジディ教には、様々な細かい決まりがあります。
例えば、生後ヤジディ教の洗礼を受けたものは改宗できないこと。また他宗教からヤジディ教への改宗もNGとされており、他宗教者との結婚も禁じられています。
外部から見ると排他的に捉えかねない面もあり、周りのムスリムから敵対視されることもしばしば。邪教とみなされる事もあることから、ますます閉鎖的になったヤジディ教は、迫害を避けるためにコーカサス地方へ逃れるという信者も少なくないようです。
ヤジディ教の悲劇
最近では、ISがイラクへ侵攻した際、真っ先にヤジディ教徒が狙われました。邪教と見なす動きで、実に2,000人近くのヤジディ教徒の男性、および老人が殺害されたと云われています。また、ヤジディ教の子供は戦闘員として洗脳され、女性は奴隷として売られました。
2018年、迫害を受けたヤジディ教のムラドさんが、その事実を世界へ発信し、ノーベル平和賞を受賞されました。ムラドさんの体験は、この現代において未だにそのような事が起きているのかと、世界の人々に衝撃を与えました。その凄惨(せいさん)な体験から、少数派で生きていくことの困難さを世に知らしめたという点でも、彼女の功績は高いと思います。