エチオピアのラリベラにある岩窟教会群は、凝灰岩を刳り貫いて造られたエチオピア正教会の教会堂群で、世界の石造建築史から見ても非常に重要な建造物です。今回は、界遺産に登録されているラリベラ岩窟教会群をご紹介します。
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ラリベラの岩窟教会群
ラリベラの岩窟教会群は、エチオピアの首都アディスアベバから北へ約645kmに位置するラリベラ市にある宗教建築群です。エチオピアにおけるキリスト教文化の象徴であり、多くの巡礼者が訪れる重要な聖地です。また、ラリベラの教会群は、岩山を刳り貫いた独特な建築様式と歴史的背景から、1987年にユネスコの世界遺産に登録されました。
ラリベラの岩窟教会群の特徴
ラリベラの教会は、地上に建物を建設するのではなく、岩山を上から垂直に下へと刳り貫いて造られています。岩山の上に建物を建設するのではなく、岩山をくり抜こうと考えた点に俄然興味が湧きます。起伏の激しい岩山の上に建てるより、岩山を刳り貫いた方が効率的という判断だったのか、周辺に適当な資材がなかったのかはよく分かっていませんが、その建築技術は非常に高度なものです。
まずは、聖堂の上部だけを残し周囲を徐々に掘り下げ、最下部とする底に辿り着いたら地面を作ります。そして、残した中央の岩の塊の中をさらに刳り貫いてドアや窓、柱、床など細部を削って部屋にしたと考えられています。地上に出るための細い通路や、岩山の中に作られた複雑な構造は、まるで地下都市のようです。
岩窟教会群の造られた背景
ラリベラより南方にはアクスムという町があります。ここは、紀元前より興ったアククム王国が栄えた場所でした。この王国はコプト教の伝播から、西暦333年にはキリスト教を国教とします。
アクスム王国が滅んだあと、エチオピア帝国では12世紀頃にサグウェ朝が興ります。この当時、イスラム教徒に征服されたエルサレムのキリスト教聖地巡礼は止められていました。エルサレムで育ったザグウェ朝のラリベラ王は、エチオピア王国の首都であったラリベラを「新しいエルサレム」にしようと考えます。
ラリベラを流れる川をヨルダン川と改名し、川を挟んでいくつもの教会を掘り進めます。これらはアクスム王国の建築様式や、ギリシャ・ローマ、ビザンツ帝国の建築技術などの影響を受けているのも特徴です。
主な教会
巨大な岩山をくり抜いて作られた11の教会は、その壮大なスケールと精巧な造りから、世界中の観光客を魅了しています。ラリベラの主な岩窟教会をご紹介します。
ベテ・メドハネ・アレム(救世主の家)
世界最大級の単一岩石教会であり、ラリベラ最大の岩窟教会の1つでもあります。キリストの象徴であるアークの複製と、アフロ・アイゲバという名前のラリベラ王の聖十字架があります。
ココで発見された2つの文書は10世紀ごろのものとされ非常に希少です。
1つはラリベラ王が領主の統治のために土地を寄進したことに関する写本で、もう1つは別の宗教儀式を記録したものでした。
ベテ・マリヤム(聖母マリアの家)
ヨルダン川北側に位置する岩窟聖堂の中で、最初に造られた教会です。
内部は美しい模様が描かれており、ラリベラの教会群の中でも最も装飾が豊かな教会です。
ベテ・ゴルゴタとベテ・ミカエル
ヨルダン川北側にある聖堂で、同じデザインの聖堂が内部で繋がるという個性的な構造です。伝説によると聖ラリベラ王はこのゴルゴタ教会に埋葬されているとされています。
この複合施設は、ラリベラで最も神聖な聖地の1つで、西暦152年頃にラリベラを訪れたポルトガルの司祭フランシスコ・アルバレスによると、ラリベラ王の墓はゴルゴタ教会の床下の地下室にあり、誰も動かせないほど重い大きな石板で覆われていたとしています。
基本的には男性のみ入場することができます。
アダムの墓
エルサレムがイスラム教徒によって占領されたとき、ここにエルサレムのすべての聖地コピーを作成する必要があったため、アダムの墓と呼ばれる場所を作りました。内部にはキリストの墓とアダムの墓のレプリカが置かれています。
ベテ・アバ・リバノス
こちらは岩壁に切り込まれており、屋根と床だけが地層に残っているラリベラの教会の中でもユニークな建物です。伝説によると、シリアから単身やって来た古代キリスト教徒の司祭によって建てられましたが、ラリベラ王はこの岩場の建設には参加しなかったよう。ほかの教会が岩上から直角に下方へ刳り貫かれているのに対し、この教会はサイドから刳り貫かれています。ヨルダンのペトラに見る手法です。
ベテ・アメノ・エル(エマヌエルの家)
キリスト教の象徴が描かれた独特の彫刻が施されています。一説によるとラリベラの城、若しくはラリベラの家、または宝物を保管する場所でしたが、後に教会に変わりました。岩の中の小道と複数の秘密の通路があり、ラリベラの最も魅力的な教会の1つです。
崖の上に吊り下げられており、そこにアクセスするには橋を渡らなければ行くことができません。
ベテ・ケダス・マーコレウス
ラリベラ岩窟の中で最も重要なベト・アマヌエルとベテ・ベルギオスの間に位置する小さな建築です。何に使用されていたか不明です。
ベテ・ガブリエル・ルファエル
この教会は、かつて王族の住居であったと考えられ迷宮のような構造が特徴です。丘の側面に彫られ、橋で結ばれた2人の天使を祀った教会です。
ベテ・メルクラ・クリストス
他の教会とは異なり、木造の梁が特徴です。
ベテ・ケドゥス・メルコレウス
足首に手錠がかけられる器具が見つかったことから、かつての刑務所であったと考えらえれています。
ベテ・ギオルギス(聖ゲオルギウス教会)
十字架形の外観が特徴で、おそらく最も有名で写真に収められることが多い教会です。
ラリベラで最も保存状態がよく、シンボル的な存在で、上から眺めると十字架に見えるように掘り下げていったという点でもユニークな聖堂です。
ラリベラ王が夢で聖ギオルギウスを見たことから建設が始まり、ラリベラでは最後の11番目に完成したものです。
訪問に際しての注意点
服装
聖地のため、肩や膝を出さない服装で訪れるようにしましょう。
ガイド
岩窟教会は広範囲に点在しているため、ガイドを雇って見学すると効率的です。
体力
教会が広範囲に点在するほか、岩山を上り下りするためある程度の体力が必要です。また歩きやすいシューズをお勧めします。
雨季
雨季は道が滑りやすく、また教会内部も湿気るため乾季の訪問がおすすめです。(雨季:6~9月)
紛争地
国軍と民兵組織が衝突する時期あり、度々紛争地指定されています。筆者の訪ねた2024/4は特に問題はなく、欧米の観光客も多く滞在していました。フライトは首都アディスアベバより毎日運航がありますので、紛争期間中は遠方からの陸路での移動は避けた方が無難かと思われます。
ラリベラ岩窟教会群の入場料
US100$(若しくは同等額の現地通貨)で三日間有効です。
訪問のおすすめは日曜日
現在もエチオピア正教会の信者たちが礼拝を行う場所であり、毎週日曜日はミサのため正装した信者がこの教会群の周りに多く集まります。日本では観ることのできないとても神聖な雰囲気で、宗教的な活気を感じることができます。
宿泊地は山の上がおすすめ
アディスアベバ⇔ラリベラ空港のフライトは一日往復一本スイッチバックのため、ラリベラの岩窟教会群の訪問に日帰りは厳しいです。このため、少なくとも一泊はすることになると思われます。岩窟教会群の周りにホテルやゲストハウスは点在しますが、20分ほど山を登ったところには、180度パノラマのホテルもあります。大陸ならではの大変景色の良い宿泊施設がありますので、ぜひおすすめします。
ラリベラへの行き方
日本からエチオピアの首都アディスアベバへエチオピア航空の直行便があります。アディスアベバで国内線に乗り換え、ラリベラ空港へ行くことができます。