ティグリス川、ユーフラテス川が南北に流れる国イラクは、メソポタミア文明発祥の地です。この辺りは、紀元前8000年には集落が出現した世界最古の都市ともいわれ、北部よりアッシリア、南部のアッカド、シュメールと文明が広がっていきました。今回は、かつてアッシリア王国が栄えた、イラクの北部・クルディスタン地域にある「主都アルビール」と「ラリシュ」という街の様子をご紹介します。
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イラク国内のクルド人地域
イラク北方に位置する「クルディスタン地域」は、平野、谷、丘、高地、山脈などの連なる自然豊かな土地で、原油などの鉱物資源も豊富です。
ここには紀元前8000年、太古の昔より民族が居住しはじめて集落ができ、やがて政治・経済・宗教・文化などの拠点となると、王国が誕生して文明が形成されていきました。そうして生まれた世界初の都市文明といわれる「メソポタミア」は、世界各地へ多大な影響を及ぼし、我々の歴史においても大変重要な意義をもたらしていきます。
長い長い歴史を経て今、イラク北方のこの地域は「クルド人自治区(クルディスタン地域)」となっており、イラクとは政経を別とする事実上の独立状態にあります。クルド人は「独自国家を持たない世界最大の民族」として知られており、およそ3,000万人がイラク、トルコ、イラン、シリアの国境付近に住んでいます。
彼らにとって国家の建国は悲願ですが、周辺各国の反対は凄じく、最近ではイラクからの独立を画策したクルディッシュによる軍事衝突が、2012年にイラク国内で起きています。
2014年のISによるイラク攻撃の際、クルド人兵の労働党(PKK)が躍進したことはニュースでご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、その時、イラク政府軍が撤退した地域をクルド兵が掌握するなど、自治地域を広げました。
2017年には、建国(独立)の是非を問う投票がクルディスタン全域で行われて賛成多数となるなど、独立の機運はますます高まっています。
このように、火種の絶えないこの地域ではありますが、歴史的な文化は今も健在です。それでは、イラク・クルディスタン地域の歴史と見どころをご紹介します。
クルディスタン地域の主都Erbil(アルビール)
クルディスタン地域の主都アルビールは、イラクの北方に大きく広がる平野に位置し、クルディスタン地域内で一番人口の多い都市です。まだ国家ではないため、「首都」ではなく「主都」と書きます。
アルビールの歴史
ここアルビールの歴史は古く、錚々(そうそう)たる歴史を刻んできた古代都市でもあります。大きな流れを紹介すると、以下の通りです。
- 紀元前8000年:人が住み着いて集落が形成
- 紀元前3800年:シュメール人が現れ文明を築く
- 紀元前2300年:アッカド帝国建国
- 紀元前1900年:バビロニア支配
- 紀元前1600年:ヒッタイト建国
- 紀元前1300年代:アッシリア帝国建国
アルビールの主な観光スポット
アルビールの城塞(Citadelle of Erbil)/世界遺産
アルビールの街は、この城塞を中心に放射状に広がっています。城塞の城郭自体も円形となっており、周辺には高い建物がない平地の地上25メートルの高さに建てられているので、街のどこからでもこの城塞を確認することができます。また、こちらの城塞は世界遺産に指定されています。
アルビール城塞の歴史
誰がいつ建てたのかは分かっておりませんが、紀元前2300年頃の文献の中でこの城塞について触れられているため、少なくとも今から4300年ほど前には、ここに何らかの形で城塞が建設されていたものと思われます。
時代の移り変わりとともに様々な国家勢力に支配され、修復に修復を重ねてきたため、城塞の外壁はとても綺麗な状態となっています。ところが内部には「その当時のままなのでは?」と思わせるような古い民家も存在します。
城塞内では今でも人々が暮らしており、「8000年にわたり人が住み続ける都市」のタイトル年数は、今後も伸びていきそうです。
城塞内部の様子
城塞の面積はおよそ110,000平方メートルあり、モスク、学校、美術館、住居などで形成された、どこにでもある一般的な町です。
住居は665戸あり、うち5棟はエリート高官用なのだとか。建築様式が他の住居とは明らかに異なり、優雅な外観をしています。
シュメール、アッカディアン、バビロニアン、アッシリアンなどが住んだこの砦は、文明の流れを感じられる、世界でも希少な場所となっています。
Grand Mosque(Mulla Afandi Mosque)
西暦640年頃、城塞内に建てられたといわれるこちらのグランドモスク(Mulla Afandi Mosque)は、当時よりこの城塞内に住む人々のコミュニティ形成の場として大きな役割を果たしてきました。特に金曜の祈りの日は、午後になると、集落のほとんど全ての成人男性が集まり、様々な催しが行われていたといわれています。
以前は21のドームと大きな祈りのホールがあったようですが、1957年にミナレット以外の全てが取り壊され、近代的(現地の人々に言わせると劣った)様式で今のモスクに再建されました。
残念ながら、この建築様式を今も不満として受け入れられずにいる住民も多く、オリジナルの特徴を取り戻すことが期待されているとのことです。ちなみに筆者は、このままでも十分魅力的に思いますが。。。
Kurdish textile Musium
城塞内の南側に位置するこちらの「クルディッシュ・テキスタイル美術館」では、クルディスタンの民族手工芸品を展示しています。羊毛を使った伝統的な人形や衣服などが展示されています。壁一面に掲げられているタペストリーやカーペットの中には古く黒ずんでいるものもあるなど、時代や歴史の重みを感じる美術館です。
2階には素敵なカフェもあるので、休憩するにもよいですよ!
- 入館料:1,000イラクディナール、若しくは1USドル(およそ100円)
- クルディッシュ・テキスタイル美術館
- イラク / 博物館・美術館 / 美術館
- 住所:Kurdish textile musium地図で見る
城塞内にある絶景ポイント
アルビールの街は、この城塞を中心に放射状に広がっています。城塞より高い建物は外円の遠くにしかないため、ここからの見晴らしはよく、地元の人々もセルフィーを撮ったり、ボーっと煙草をふかしたりと、何かと人を惹きつけています。特に、城塞の南門と北門付近が絶景ポイントなっています。
南門の近くからは、下の写真のように公園全体の景色を見下ろすことができます。悠久の時を感じる素晴らしい景色ですね。
- アルビール城塞の南門
- イラク / 建造物
- 住所:36.189999,44.009467地図で見る
下は、城塞の北側にある門です。
こちらからの見晴らしも抜群です。
地上にいると、よく見えないモスクのドームも、この城塞から見下ろすと全景がよく見えます。
こちらは、のちほどご紹介するJalil Khayat Mosqueです。
近くで見ると大きすぎて全貌が撮りきれないのですが、城塞の高さから眺めると、その独特の形状と建築様式がじっくり見ることができ、その風貌に惚れ惚れします。
城塞から眺めるアルビールの街の景色は、数千年前ここに住んでいた人々も眺めていたであろうと思われ、古来の人々と同じ感情を共有できる情緒と浪漫があります。
- アルビール城塞の北門
- イラク / 建造物
- 住所:36.192835,44.008832地図で見る