シリア

【シリア】パルミラ遺跡の今

取材・写真・文:

東京在住
訪問エリア:191ヶ国

2024年6月9日更新

17view

お気に入り

写真:toshel

2011年より始まったシリア侵攻で、テロリストに破壊されたと云われるパルミラ遺跡。2024/3時点での状況をご紹介します。筆者の訪ねた感想としては、「思ったより残っている」です。

この記事の目次表示

パルミラ(タドムル)の歴史

シリアの首都ダマスカスの北東約230kmに、タドムルと呼ばれる砂漠のオアシスがあります。

古代オアシス都市として栄えたパルメラは、紀元前18世紀に楔形文字で書かれた文書には既に「タドゥミル(タドムル)」 というこの町の呼び名も残されていました。アラビア半島とメソポタミア、そして地中海を結ぶこの地は、古くから東西交易の中継地として栄え、特に紀元前1世紀末から紀元後3世紀にかけては、中国とヨーロッパを結ぶシルクロードの隊商都市として栄華を極めました。

この周辺で絶大な勢力を誇っていたローマとパルティアが常々争っていた時代、パルミラは両者の力関係をうまく利用して独立を保持し、交易による関税の徴収によって豊かな経済活動を続けます。そして、多くの神殿や建造物を建設し続けました。

しかし、ローマのパルミラ進撃に最後まで降伏勧告を拒み続けた結果、272年、ついにローマの手に落ち、その後は6世紀以降にアラブのガッサン朝、ウマイヤ朝、アッバース朝と支配者が代わると、オスマン帝国時代に入って急速に都市としての力を喪失し、その後、再び歴史の表舞台に立 つことはありませんでした。

パルミラ遺跡

パルミラは、シリアの遺跡の中で最も代表的なものの一つです。砂漠に忽然と姿を現す街は、1980年に「ユネスコの世界進産」に登録されました。広大な大地に聳え立つ黄土色の列柱群や神殿は、かつての輝かしい栄華を見て取れ、シルクロード交易で繁栄を極めたパルミラ王国を思い起こさせます。戦争前まではシリアを代表する観光名所でしたが、今となっては全く観光客を見ません。テロリストに破壊されたパルミラ遺跡が今現在(2024/3時点)どのような状態かも交えご紹介します。

ベル神殿

紀元後1世紀から2世紀にかけて建設されたベル神殿は、列柱で囲まれた広い基壇の中央に本殿や祭壇がありました。

  • 写真:toshel

2011の戦争以前は、下の絵葉書のように本殿らしく立派な建物がありましたが、今は枠を残すのみ。

  • 写真:toshel

尽く破壊された様子がわかります。

  • 写真:toshel

本殿は主神のベル(バール)と太陽神のヤヒボール、月神アグリボールの三神に捧げられていました。

  • 写真:toshel

記念門(Monumental Arch)

遺跡群の入口にある記念門は英名のとおりアーチとなっていましたが、今はそのアーチ部分は破壊されサイドの列柱のみです。

  • 写真:toshel

戦争前まではこのような美しいアーチの門でした。

  • 写真:toshel

ナポ神殿

メソポタミアの神を祀ったナボ神殿。以前は列柱も残っていましたが、今は土台のみです。

  • 写真:toshel

円形劇場

円形劇場は、経年劣化こそ見られるものの、破壊は免れているように見えます。

  • 写真:toshel

ほぼ完全な舞台が遺っています。

  • 写真:toshel

毎春にパルミラ・フェスティバルというイベントが開催されていたそう。

  • 写真:toshel

議事堂

元老院の議事堂は建物こそないですが、入り口のアーチは顕在です。

  • 写真:toshel

市場(Agora)

広大なアゴラでは、上述の通りシルクロードの要衝らしく様々なものが売られていました。

  • 写真:toshel

商品ごとに税金も決まっており、パルミラ語で彫られたそれらの石板は首都ダマスカスの美術館に展示されています。

  • 写真:toshel

列柱通り

ところどころ破壊されていますが、美しい装飾が施されていたであろう列柱の通りが長く続きます。

  • 写真:toshel

こちらは古代の水道。列柱通りに沿うように流れていました。

  • 写真:toshel

四面門(Tetrapylon)

以前はこのような美しい4つの門がありましたが、

  • 写真:toshel

今は4本の列柱を残すのみです。

  • 写真:toshel

アラブ城

高さ150mの岩山山頂にそびえるアラブのお城です。

  • 写真:toshel

民族文化博物館

以前、文化博物館のあった場所は簡易なカフェになっており、パルミラコーヒーやトルココーヒーを淹れてくれます。

  • 写真:toshel

パルミラ(タドムル)の今

パルミラの遺跡があるタドムルは、戦争前まで人口3万人弱の小さな町でした。町の経済は観光に支えられていました.

現在は、ほとんどの住人は難民となりゴーストタウンと化しています。

  • 写真:toshel

メインストリートとなるジャマルアブドゥル・ナセル通りは、バルミラ博物館やお土産物屋、ホテルで賑わっていました。今はほぼ破壊され、泊まれるホテルは一軒もありません。博物館も閉鎖中です。平和になり戻ってきた住人も数家族いますが、街に人はまばらです。

  • 写真:toshel

パルミラ遺跡の観光は2024/3現在、ツアーのみです。シリア内の有効な道路はシリア軍によって警備強化されており、外国人は通行許可証がないとパスできない状況です。このため、パルミラ遺跡にも現地ガイド同行での観光をオススメします。

パルミラ遺跡は、今はまだ以前のように「パルミラに宿泊して何日かに分けて観光」といったことはできません。海外に逃れたシリア難民は1千万人近くにも及ぶといわれており、徐々に帰国し始めています。パルミラも以前のような穏やかな日々が訪れることを願います。

パルミラ遺跡
シリア / 遺跡・史跡
住所:パルミラ地図で見る

シリアの旅行予約はこちら


シリアのパッケージツアー(新幹線・飛行機付宿泊プラン)を探す

シリアのホテルを探す

シリアの航空券を探す

シリアのWi-Fiレンタルを探す

この記事で紹介されたスポットの地図

関連するキーワード

※記事内容については、ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。

あなたにオススメの記事

この記事を書いたトラベルライター

地球旅~現在191ヵ国~
行ったことのない国を中心にひとり旅しています。他国の歴史、文化、宗教、遺跡、そしてそこに住む人々の考え方に興味があります。

車の運転が好きなので、海外ではドライブ旅を楽しんでます。普段は会社員です。

【ホンジュラス】世界屈指の犯罪都市テグシガルパ

世界の治安が悪い国ランキングなどを見ると、毎年必ず上位になってしまうホンジュラス。しかし、手つかずの美しい自然が多く、世界遺産に登録されたマヤ文明のコパン遺跡を...


【レバノン】ベイルート・ビブロス・バールベックの見どころ

遠い昔、世界の中心が地中海にあった時代、レバノンは東西貿易の交差点となる重要な位置にあり、繁栄の極みにありました。古くから数多くの王様や将軍が、この土地を挙って...


カリブの島はどこがいい?陽気レゲエでちょっぴり危険な「バルバドス」どこまでも静かな「アンティグア」

カリブ海には、大小様々な島がおよそ700あります。そのほとんどは欧米各国の領土で、独立国はわずか13カ国のみ。今回は、その中より対極にある2つの小さな島国をご紹...

【サウジアラビア】ついに観光ビザ解禁!閉ざされていた王国の珍しい文化と各都市の見どころ

観光での入国が困難だったサウジアラビアが、2019年9月27日に突然、ツーリストビザの発給開始を発表しました。今回は、サウジアラビアに古くからある慣習と文化、そ...

【ベネズエラ】世界の危険都市上位?首都カラカス

世界屈指の産油国にしてハイパーインフレーションに陥った南米の国ベネズエラ。かつて、スペイン植民地から独立へと導いた英雄「シモン・ボリバル」の生まれ育った街でもあ...

トラベルライターインタビュー Vol.3 Emmyさん

【トラベルライターインタビューVol.3】一人旅を応援する記事を多数執筆!Emmyさんならではの人気記事執筆のコツやその原動力に迫ります