シャーマニズムはモンゴルを代表する宗教文化のひとつですが、これに関する観光名所はあまりないため、ツーリストが触れる機会は少ないかもしれません。ただ予想以上に人々の生活に浸透していて、特に大自然に生きる遊牧民にとって不可欠なようにも感じます。今回はそんなシャーマニズムとシャーマン活動について詳しく解説します。
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シャーマニズム・シャーマンについての基礎知識
はるか昔、人々は自然災害、干ばつ、食糧危機、病気など、人間がコントロール不可能なあらゆる現象は、神との関わりの中で起きていると考え、災いから身を守るために祈りを捧げてきました。この思想がシャーマニズムのはじまりであり、自然宗教や原始宗教とも呼ばれています。
そして神と人間が交信するための、受け皿的な役割を果たすのがシャーマンです。ここでは神と表現しましたが、精霊、高次元の存在、先祖の魂などいろいろな言い方があり、明確に「何」と示すことはできないようです。シャーマンはその不思議なエネルギーをカラダにおろし、人々の願いに応じます。
モンゴルにおけるシャーマニズムの歴史
人々の心にシャーマニズムが根付いた時期は、正確には明らかになっていませんが、数千年前から存在していたことがわかっています。そして7世紀頃までがその歴史の第一章となり、当時は女性の立場が優位だったことや、女性用の衣装や飾り物が見つかっていることから、女性のシャーマンが活躍していたと考えられています。
その後、シャーマニズムは長期に渡って発展し続けましたが、モンゴル帝国が滅ぶと同時にその勢いは弱まりました。そして1368年にはチベット仏教がモンゴル全土に広がり、政治や教育の中心となって栄えました。以来シャーマニズムは主要な存在ではなくなりましたが、その後も回復や抑圧などをくり返しながら現在もなお信仰されつづけています。
シャーマンが操るエネルギーの種類
シャーマンのエネルギーを大きく分類すると、白と黒の2つに分かれます。白のシャーマンは正のエネルギーを扱うことを得意とし、人々に対して治癒や浄化を施したり、ポジティヴに生きるための助言を与えます。
一方、黒のシャーマンは負のエネルギーを扱うことを得意とします。恨みや嫉妬などネガティヴな念を祓ったり、ときには標的となる相手に災いが降りかかるよう祈ります。そう聞くと恐ろしい気もしますが、シャーマンは基本的に依頼者が救われるための手助けをしています。そのため黒が悪というわけではなく、神聖なものに変わりはありません。
民族とシャーマンになるためのプロセス
シャーマンはあらゆる地域に存在していますが、特に知られているのは北部のダルハド族、東南部のブリヤート族、中央部のハラハ族です。中でももっとも認知度が高く、霊力がパワフルといわれているのはダルハド族です。
彼らはダルハド盆地に住む少数民族で、トナカイを飼う遊牧民として暮らしています。ダルハド族には先祖代々シャーマニズムを受け継ぐ家系があり、親から子へとその役目を継承し続けています。そのほかの民族は、何らかのきっかけによってシャーマンになるよう導かれます。多くの場合は夢や予言によってお告げを受け、その後師匠となるシャーマンの元で精霊と繋がるスキルを身につけます。
精霊は民族ごとに違うため、別の地域のシャーマンに弟子入りしたり、祈りの聖地に近づくことは基本的にはありません。そして自ら希望してシャーマンを目指すこともないらしく、あくまでも導かれた者だけがその役割を担います。
シャーマンと人々との関わり
シャーマンとは職業ではないため、普段は一般人として仕事をしながら生活をしています。そのため見た目に見分けはつかず、お寺のような決まった場所にいるわけでもありません。依頼者は人伝いに情報を得るしかありませんが、シャーマンの数は意外と多く、都市部ではわりとカンタンに見つかります。
郊外の小さな村でも一人以上はシャーマンがいるらしく、人々は幸せを求めたり苦しみを取りのぞくなど、様々な願いを持ってやってきます。重要度や深刻度はそれぞれですが、それは私たちが心に抱く悩みや望みと変わらないでしょう。
儀式にはお供物としてお菓子やミルクが用意され、シャーマンは衣装をまとい大きな太鼓を手にします。そして太鼓の音とともにトランス状態に入り、天から精霊を呼び寄せます。この間シャーマン自身の意識がどこへ行っているかわかりませんが、終わったあとは夢を見ていたようなぼんやりとした感覚になるようです。
通常、儀式は個人の依頼によって行われますが、ときには「オボー」と呼ばれる場所へ出向くこともあります。オボーとは丘や峠などに石を積み上げて造られたもので、祈りの場として扱われています。
草原に住む遊牧民は干ばつ、洪水、雪害、山火事など、自然災害の影響を大きく受けるため、良くない状況が続いたときは、人々はオボーに集まり天に祈ります。その際にシャーマンまたは僧侶を招き、神をなぐさめ天の恵みを受けとるための儀式を行うそうです。
おわりに
シャーマンは不思議なエネルギーを操りますが、人々にとって特別な存在というよりは、もっと身近な心の支えになっているように感じます。遊牧民は常に大自然と共存し、壮大さや厳しさの中で暮らしています。そんな彼らにとってシャーマニズムの原点となる思想は、きっと変わずあり続けるでしょう。
ですがシャーマニズムを信仰する人ばかりではなく、シャーマンの予言を占いのように捉え、当たるかどうかにフォーカスしたり、信じないという人たちも実はいます。ただ、自分たちを生かしてくれているこの世界を敬う意味で、シャーマニズムを捉えていくと面白いのではないでしょうか。
モンゴルを訪れた際には広大な大地の上で、人々がどのように自然と向き合ってきたかを感じてみてください。もしかしたら今までにない世界観が広がるかもしれません。